6期・52冊目 『不思議の扉1 時をかける恋』

内容(「BOOK」データベースより)
本読みのプロが選んだベストはこれ。古今東西の短編小説から不思議な味わいの傑作を集めたアンソロジーシリーズ、第1弾のテーマは「時をかける恋」。タイムカプセルに入った恋人のもとに通い続ける恋、時間と場所をこえて何度もめぐりあう男女の恋、ひとたび眠るといつ目覚めるかわからない彼女との一瞬の再会を待つ恋―。

収録作は以下のとおり。


いずれも時を隔てた、通常ありえないような不思議な恋物語が収録されています。
「美亜ヘ贈る真珠」と貴子潤一郎「眠り姫」はコールドスリープと難病という違いはあるものの、時が止まったままの相手に対する想いを描いたという点で対になっていて、選者のナイスな選択が光ります。
客観的にみれば若い姿を保ったままというのはいいことかと思えますが、愛しい人と時を共に歩めないという点で悲劇的ではありますね。
「浦島さん」では、タイムスリップの古典とも言える浦島太郎の新解釈が太宰治の手によって書かれていたという驚き。竜宮城の描写がユニークでした。
「エアハート嬢の到着」は時を隔てた男女が出会う難しさとその想いの強さを感じます。シリーズものなのでしょうか。前後があれば読みたいものです。
「Calling You」は頭の中で作り上げた携帯電話で会話するという斬新さに驚かされました。きちんともう一人の会話相手のオチもついていて、非常に印象に残る作品でした。
そしてラストの「机の中のラブレター」。短いながらその後の映画に影響を与えたという。何度かの手紙のやり取りに過ぎないのですが、時を超えて送るメッセージのドキドキ感と切なさが伝わってくる内容です。
収録作品それぞれに魅力があって充分楽しめたアンソロジーでした。
加えて大森望による解説が秀逸で、収録以外の関連作品にも多数触れているので、こういったストーリーが好きな読者には堪りませんね。