『血―吸血鬼にまつわる八つの物語』

内容(「BOOK」データベースより)

人間の生き血を吸わなければ生きてゆけない伝説の怪物―吸血鬼。数々の忌まわしい言い伝えに彩られ、人々を恐れおののかせてきた禍々しくも美しい怪異が、八人の創造者の手によって、今ここによみがえる。ブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』を世に問うて100年の時がすぎた20世紀末、血を吸う悪魔の恐怖は新たに形を変えて、ひ弱な人間たちにまたも襲いかかる。現代吸血鬼小説の最先端を収録した豪華アンソロジー

映画監督2人・小説家6人による、吸血鬼をテーマにしたアンソロジーです。
オーソドックスな西洋風の吸血鬼(ヴァンパイア)あり、妖怪じみた吸血蛭もあれば、人間に血を抜かれる話もあり。主人公が吸血鬼本人であったり、吸血された犠牲者(?)であったり、はたまた追う者であったりと内容もバラエティーに富んでいました。


「13」大原まり子
盲目の私を拾い育ててくれたお屋敷の中には13人目の異形の何かが存在していた。

「かけがいのない存在」菊地秀行
独特な機械工業文化が発達した世界にて、ある職人はガラクタ市場で精巧な人形を見つける。首元にある奇妙な穴の謎解きに夢中になるのだが、その人形を巡って謎の集団の襲撃を受ける。

「薔薇船」小池真理子
耽美派の風変わりな作家が遺した記念館を訪れた主人公。
遺作として展示されていたのは作品の体裁さえ成していないプロットであったが、それを読んだのをきっかけに古い記憶が呼び起こされる。

エステルハージ・ケラー」佐藤亜紀
19~20世紀のオーストリア。ある日突然吸血鬼になってしまった男の顛末。人外の化け物となってしまった男は家族からも恐れられるが、信仰心は失うことなく、司祭のもとで働くようになる。

「アッシュ―Ashes」佐藤嗣麻子
男は酒場で出会った女吸血鬼に惹かれてそのまま隠れ家に監禁・飼われる生活を送るが、ある日突然解放される。男は彼女のことが忘れられず、何年もかけて探し求めてしまう。

「一番抵当権」篠田節子
ライターとして成功した男は長年支えてくれた妻を捨てて、若く美しい女を娶る。
しかし、金にルーズな彼は支えがなくなるとたちまち困窮して借金地獄に陥ってしまう。困り果てた末に捨てた元妻を頼ることになって、病院に匿われて試薬検体のアルバイトをすることになるが…。

「スティンガー」手塚眞
夜の公園に出没する美しい女性ヴァンパイアに魅せられてしまったホームレスの少年。ヴァンパイア・ハンターの大男は少年にヴァンパイアの住処へと案内させようとする。

「血吸い女房」夢枕獏
安倍晴明シリーズより。さる貴族の女房*1が就寝後に不審な症状を訴える謎に晴明と博雅のコンビが迫る。


半分以上がヨーロッパもしくは異世界を舞台にしてあり、独特の世界観が味わえて良いとは思います。
でも個人的には現代を舞台にした「薔薇船」と「一番抵当権」が非常に印象に残りましたね。前者は血を吸う行為からのエロティシズム、後者は因果応報としてのホラーなオチが秀逸でした。

*1:ここでは高位貴族の屋敷に勤める女官や侍女の意味