11期・61冊目 『眠り姫』

眠り姫 (富士見ファンタジア文庫)

眠り姫 (富士見ファンタジア文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

彼女は『眠り姫』と呼ばれていた。成績優秀で美人だった彼女の唯一の欠点である“居眠り”癖を、同級生たちがからかい半分で付けた渾名だ。そのことに拗ねる彼女の顔がまた可愛らしく、私はさらに「姫、姫」と意地悪をした。そんなたわいもない、しかし幸せな日常を私は楽しんでいた。そして、彼女との日々がいつまでも続くものと思っていた―。彼女が、本当に『眠り姫』になってしまうまでは…。あまりにも静謐な純愛を描いた表題作ほかバリエーション豊かな作品を収録!大賞受賞作家・貴子潤一郎の珠玉の短編集登場。

以前読んだ『不思議の扉1 時をかける恋』に収録されていた「眠り姫」で覚えがあった貴子潤一郎の短編集ということで手に取って見ました。
収録作品は以下の通り。
「眠り姫」
「汝、信心深きものなれば」
「水たちがあばれる」
「さよなら、アーカイブ
探偵真木シリーズより、「ヘルター・スケルター」、「カム・トゥギャザー」、「孤独のRunaway」


「眠り姫」は体の異常により極度に疲労が溜まって、それを睡眠で補うようになってしまった奇病に罹った少女とそれをずっと見守っていた少年の話。
最初こそ授業中の居眠り程度でクラスの皆もからかう程度で済んでいたのですが、眠っている時間が長くなり、自転車に乗っていて急に眠りに落ちるようになってしまい、まともな学生生活が送れなくなってしまう。さらに症状は進んで長い月日をこんこんと眠るようになり、本人はそのまま目覚められないのではないかという恐怖に囚われるのです。
現代医療でも治せない奇病の眠りに囚われた姫とそれを一生をかけて救おうとする騎士(少年)。現代の純愛物語ですね。
同じ時を生きながら、眠りによって意識のずれが生じてゆくのが切ないです。
厳密に言えば時間ではないけど、時が二人を分かつ点で梶尾真治の時間SFを彷彿させました。


「汝、信心深きものなれば」は中世ファンタジー風の王国を舞台にした、人外の存在が少女の復讐を叶えるために一人の貴族を絶望のどん底に落とすという内容。
テンポ良く進んで読みやすいのですが、たまたま少女の願いを叶えたのはよっぽどその想いが美味であったのかとか、彼自身は淫魔なのかはたまた吸血鬼なのか正体が気になりました。


「水たちがあばれる」は毎日12時をもって摩訶不思議な水が押し寄せてきて、ほとんどの部分が水没してしまう現象の中で生き残った人々の話。
わずか十数名のグループは交代で水が引くタイミングで食料を求めてデパート等に探しにいって食い繋いでいるのです。
そんな中でリーダーの青年が水に溺れて死んでしまうのですが、生前彼を憎んでいた余りに時計を狂わせて殺したも同然の行為をした少年と恋人だった女性が食料を探しに行くというスリリングな出だし。
女性のお腹には子がおり、実は青年との仲もうまくいっていなかったというミステリー溢れる内容となっています。
なんだか最後はホラーチックな幕切れなんですが、なんだかんだで身勝手な男に対して、母は強しといったところでしょうか。

「さよなら、アーカイブ」は読書感想文に苦労した余りに架空の図書をでっちあげて書いたら、それが賞の末席に入ってしまった挙句、憧れの図書司書にその本を読んでみたいと言われて慌ててしまう高校生。
彼女と接していたくて、嘘に嘘を重ねてしまうのですが、罪悪心を解消するために彼女が昔から探し求めていた幻の本を見つけようと奔走する。
甘酸っぱいんだけど、本好きとしてはわかるような気がして、感情移入しやすく読後感も良かったですね。

探偵真木シリーズは過去に所属事務所とトラブルがあって独立した探偵がなぜか映画フリークのヤクザと腐れ縁ができて、本人は嫌がりつつも裏社会でのトラブルに突っ込んでいかざるを得ないという、ややレトロな感じのハードボイルド。
ビートルズをメインに古い映画など趣味感全開ですね。
妙に恰好つけたがりな割には人が良くて泥臭い主人公・真木がいいです。
武闘派ヤクザとして登場した橋爪が回を追うごとにそのキャラが崩れてしまうのはなぜなのか(笑)
そんな橋爪が結婚したのも驚きでしたが、最後の「孤独のRunaway」では可愛らしい娘(母親似)ができていて、主人公ならずともびっくりでした。
登場人物たちも魅力的で、続きが気になってしまいましたね。