不手折歌 『亡びの国の征服者7 魔王は世界を征服するようです』

家族の愛を知らぬまま死に、二つの人類――シャン人とクラ人が生存競争を繰り広げる世界に転生した少年ユーリ。王国に未来が無いことを察し、新大陸に望みを繋ぐ彼だったが、想いを交わした王女キャロルとの間に子供ができたことで婚約を決める。しかし両家の祝いの席で魔女家の奸計により両親と女王が毒殺され、キャロルも猛毒によって命の危機に瀕してしまう。命からがらキャロルと共に王城を脱出したユーリは、父ルークに代わってホウ家の新たな当主となり、兵を率いて王都を奪還し魔女家を滅ぼすべく行動を開始するのだった。
長きにわたって王国を蝕み続けた魔女家の最期――しかしそれは、彼女らをも利用しようと画策したクラ人との、新たな戦いの始まりに過ぎなかった。新たな十字軍の襲来を見据えてユーリが取る選択は……!?

この手の創作物では非常に珍しいくらいの悲劇が主人公ユーリを見舞いました。
前世で家族の愛を知らないまま転生した主人公にたっぷりと愛情を注いで育ててくれた両親。亡びの兆しが見え始めた国をなんとか立て直そうとしていた、これから義母になるはずだった女王。ユーリにとって近しい3人を毒殺によって一挙に失いました。
さらに愛する王女キャロルも一命はとりとめたとはいえ、医療の発達していないこの世界では予断を許さない状態。
直接の犯人はキャロルの妹カーリャでしたが、黒幕はこの国の最大の最大既得権益者である魔女集団。
今回はユーリの反撃、さらに十字軍の来寇にも備えるという濃くて読み応えのある内容となっています。

まずは重体のキャロルを連れて王城から脱出。屋敷に辿り着いた後は手勢をまとめて王都から領地に向かいます。この脱出戦では殿を任せた老戦士ソイムの奮闘が見どころでしたね。
領地に戻ってからは敵味方となる将家を見定めてから王都攻略。難しいところは近い将来十字軍に対する迎撃があるため、戦力は残したいところ。ビラを撒いて今回の陰謀を明らかにすることにより、大義を掴み敵の戦意を挫くあたりがさすがです。
戦力が減少した王城をなんとか攻略、カーリャを死に至らしめました。最後は魔女が集う隠れ家に赴いて一斉に始末したところでようやくケリをつけられました。復讐は成ったものの、失ったものはあまりに大きすぎたのでした。

後半はクラ人の要人であるアンジェリカの視点から十字軍が起こされる場面。そしてユーリが迎撃準備に入るところも描かれました。
シャルタ王国を掌握しつつあるユーリですが、クラ人側でユーリの脅威を認識しているのはごく少数。次の戦いを通じて魔王として恐れられていくのだろうなと思います。

加筆エピソードは療養中のキャロルに付けられた、ある侍女視点の物語でした。騎士学院時代から観戦までは輝かしいほどの存在感を放っていたキャロルですが、毒によって体を壊してからは登場場面も減ってしまいました。
ですから、キャロルのエピソードが追加されたのは本編の読者としても良かったですね。