中山七里 『復讐の協奏曲』

内容(「BOOK」データベースより)
三十年前に少女を惨殺した過去を持つ弁護士・御子柴礼司。事務所に“この国のジャスティス”と名乗る者の呼びかけに応じた八百人以上からの懲戒請求書が届く。処理に忙殺されるなか事務員の洋子は、外資コンサルタント・知原と夕食をともに。翌朝、知原は遺体で見つかり、凶器に残った指紋から洋子が殺人容疑で逮捕された。弁護人を引き受けた御子柴は、洋子が自身と同じ地域出身であることを知り…。

プロローグは主人公の少年時代に起こしたバラバラ殺人事件。それを被害者と友人の視点から描いています。最後に被害者少女の母親が友人だった女の子に語り掛けるのです。少年に対する復讐を手伝って欲しいと。
「お願いね。洋子ちゃん」
そして弁護士・御子柴礼司事務所の唯一の事務員の名は日下部洋子。御子柴礼司の過去を知りながら、態度を変えることなく勤めている優秀な事務員です。

相変らずの弁護士活動を行っていた御子柴礼司ですが、彼を名指しした大量のの懲戒請求が届きます。黒幕は『この国のジャスティス』を名乗るブログ主。ブログ内で悪徳弁護士・御子柴礼司に正義の鉄槌を下そうと煽られて大勢の人たちが乗った結果でしたが、匿名で可能と嘘も混じっていました。
数百通の懲戒請求をたった一人で処理しなければならない。これは立派な妨害活動だと御子柴は訴えることにします。そうした動きをすることで、煽ったブログ主の正体を暴こうというのです。

しかし、同じ頃に事務員の洋子が逮捕されてしまいます。容疑は殺人。
知り合いを通じて会った男性が洋子とデート*1した帰りに殺されていました。決め手は凶器のナイフに指紋が残っていたこと。
証拠充分なことから警察は洋子を容疑者と断定して留置所に入れられてしまいます。
それで困ったのが御子柴礼司。彼女がナイフで男性を殺すなど考えにくい。誰かに嵌められたのではないかと。
優秀な事務員を救うために弁護を引き受ける傍ら、弁護士協会に出向いて臨時の事務員を派遣してもらうように依頼します。そこで来たのはかつて御子柴礼司と対決したことのある弁護士・宝来でした。

タイトルに復讐とあることから、かつて御子柴礼司が少年時代に犯した殺人。その被害者の母親が関係してくるであろうと予想できます。御子柴礼司はその事実を自ら明かしていたのですから。
しかし、洋子にとって被害者少女は数少ない友人であったと明かされたのは驚き。幼い時期の出来事であったも、強烈な記憶を持っているはず。それでも事務員を続けているのはなぜか。『この国のジャスティス』を名乗るブログ主の正体、そして洋子を陥れたのは誰か? 
そのあたりも気になりながら読んでいました。

洋子という右腕を捕らわれて、窮地に陥っていそうでいながら動じることない御子柴礼司の精神力には脱帽ですね。そうでなければ過去を明かした上で弁護士を続けられないでしょうけど、
洋子が殺人などするわけがない。しかし、決定的な証拠があるのをどうやって覆すのか。
法廷では検察のミスというか盲点から殺人を犯していないことを明らかにしたばかりでなく、まんまと真犯人をおびき寄せて暴くあたりが最高でした。
そして明かされたブログ主の正体。まぁ、予想通りでした。気持ちはわからないでもないですが、哀しいですよね。
最後に登場した倫子*2の存在が救いです。御子柴礼司が変わったという証拠でありました。

*1:洋子自身にはその気がなく、単に食事しただけの感覚。

*2:かつて冤罪を晴らした被疑者の娘