- 作者: 中山七里
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/15
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
弁護士・御子柴礼司は、ある晩、記者の死体を遺棄した。死体を調べた警察は、御子柴に辿りつき事情を聴く。だが、彼には死亡推定時刻は法廷にいたという「鉄壁のアリバイ」があった―。「このミス」大賞受賞作家による新たな傑作誕生。
冒頭、激しい雨が降る晩に弁護士の御子柴礼司が男の死体を捨てに行く場面。
数日後に半裸で川に流されていた遺体が発見され、身元はフリージャーナリストの加賀谷竜次であることが判明します。
捜査を担当した渡瀬と古手川のコンビは加賀谷が御子柴の過去*1を知り、恫喝しに行って逆に殺されてしまったのではないかと推測します。
しかし、御子柴には該当の時間に法廷にいたという強力無比なアリバイが存在。
こうして、再び殺人を犯してしまったやり手弁護士・御子柴と、そのアリバイを崩そうとする警察との戦いが始まると思わされます。
そこで御子柴の過去編が挟まれていて、世間を斜に見ていた彼が音楽鑑賞の時間にたまたまベートーヴェン「ピアノソナタ第23番ヘ短調〈熱情〉」の生演奏を聴いて激しく感情を揺り動かされたこと。それに仲良くなった入所者の死といった出来事を経て、人間らしさを取り戻したのと同時に自身の犯した罪の重さをようやく悟ったのです。
すると、彼は本当に加賀谷を殺したのか?という疑問が湧くのです。
そうしてメインとなる法廷での闘い。
内容としては、トラックの荷台から崩れてきた木材によって重傷を負った製材所社長・東條 彰一が集中治療室に担ぎ込まれて治療を受けることになっていました。
ある日、見舞いに来ていた妻の美津子は日々の心労により、居眠りをしていたら人工呼吸器から異常音がそてい、慌てて起きた際に電源ボタンを何度も押して止めてしまったという。
彼女は事件の寸前に3億円もの生命保険を夫にかけていたこともあって、わざと機械を止めて死に至らしめたという、保険金目的の殺害容疑がかけられていました。
被告が圧倒的に不利な中、美津子の国選弁護人を担当することになった御子柴には勝算はあるのか?
今までどんな不利な状況においても執行猶予や無罪を勝ち取ってきたやり手弁護士の御子柴ですが、今回の相手となる検事も冷静沈着で着実にポイントを稼いでくるので、証人を挟んでの舌戦が非常に読み応えありましたね。
それでも、御子柴の戦略によって、ただの保険金目的の殺人とは異なる様相へと変わっていく過程はさすが。
さらに新たな証拠物件によって当時の状況を再現して、決まりかけていた裁判の行方を覆したのは見事でした。
しかしながら、裁判が終わってめでたしめでたしとなるかと思いきや、さらなるどんでん返しが待っていました。
言えるのは、欲望や悪意といった人間の嫌な部分が剥きだしにされて、なんともいえない気分にさせられてしまったということでしょうか。
ただ、先天性の脳性麻痺を患い、動かせるのは左手だけという東條幹也の感情の吐露は際立っていました。
重い障害を持っている幹也を必要以上に上げも下げもせず、健常者と変わらぬ知性と感情を持つ一人の人間として描かれていたのが良かったです。
*1:(14歳の時に5歳の少女を面白半分に殺してバラバラにした死体をあちこちに遺棄した。その異様さから”死体配達人”を名付けられてメディアを騒がした