まいん 『食い詰め傭兵の幻想奇譚 15』

内容(「BOOK」データベースより)

何とかレイスを撃退し、戦争を勝利へと導いたロレンたち。しかし、こちらが敵国の領地へと軍を進めるとそこには異常なほどに鎮まりきった街があった。首都へと歩を進めるロレン達は現王国への抵抗勢力接触し、現在の王が謎の男によっておかしくなってしまったことを知る。王を変え、傭兵団壊滅の真実にかかわる、ロレンと因縁のあるあの男がその姿を現す―!!これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である。

王国との戦闘に帝国側の遊撃部隊として参加したロレンたち一行。
帝国に雇われた、強大な炎の術を駆使する憤怒の邪神レイスを苦労の末に撃退し、戦線は帝国有利に動いたところで役目を終えたロレンたちは帰途に就きます。
しかし、そこで元傭兵弾団長にして今や帝国の将軍となっているユーリが単身やってきて依頼事を切り出してきます。
そこでユーリから傭兵弾壊滅の理由を聞かされて、あの黒鎧の男(マグナ)が関わっていることを知るのですが、ロレン自身の秘密に関してはユーリ自身も制約があって言えないというのです。
とにかく、ユーリの頼みでロレン(ラピスとグーラ)たちは王国内に赴いて、状況を探ることにしたのですが、どこまで行っても、どんな大きな街であっても、人っ子一人見ることなくて困惑するばかり。
しかし、グーラは微かに残っていた痕跡から、邪神が関わっていることに気づくのでした。

今までいくつか伏線のあったロレンの秘密とマグナとの因縁について、ユーリによって明かされるのかと思いきや、おそらく魔術的な強い制約があるようで、肝心な部分は明かされません。
それでも、ユーリは赤ん坊だったロレンをマグナの手から逃がすためにわざと傭兵団を壊滅させたのだと窺えます。
気になるのは、ロレンが赤ん坊だったということは20年くらい前?
マグナはそんなに歳がいっていなく、20代後半から30代くらいに思えますが、古代の魔術かなんかで不老不死なんですかね。
作中での会話からすると、マグナは古代王国でかなり上の立場。かなりプライドが高く、王侯貴族の位置にありそう。そして、ロレンは対立する勢力によって保護されていたように感じました。

ラストでマグナの目的が明らかになり、その脅威に大魔王が対策を取るところまで書かれます。
いよいよシリーズは佳境に入っていくのを感じさせます。
ここで問題はWebの原作が更新止まっていること。間隔が空きながらもかろうじて連載は続いていたのですが、次の16巻で追いついちゃいますね。
ここまできたら、せっかくだから最後まで続けて欲しいものです。

横山信義 『荒海の槍騎兵5-奮迅の鹵獲戦艦』

マリアナをめぐる決戦に勝利を得られなかった連合艦隊中部太平洋最大の根拠地であるトラックを失った。環礁を占領した米軍は大航空兵力を送り込み、難攻不落の航空要塞を建設する。次の戦場はマリアナかフィリピンか。おそらく、この戦闘で日本の命運は決する。だが歴戦の空母は撃ち減らされ、艦上機搭乗員の補充もままならない連合艦隊には米艦隊と正面から戦う力はすでに失われていた。新司令長官小沢は、わずかな勝機に賭けて、機動部隊を囮として砲戦部隊を突入させるという作戦を命じた――。

前巻での機動部隊同士の激突はほぼ痛み分けとなりました。
ただ、日本側は開戦以来の活躍をしていた正規空母が撃沈。貴重な搭乗員も多数犠牲になったのに対し、米軍で失われたのは軽空母のインディペンデンス級のみ。後方から機体と搭乗員を補充してトラック基地を攻略。
つまり、物量で押した米軍が戦略的勝利を収めたのでした。
アメリカ軍としてはこのままマリアナ諸島を攻略し、最新鋭のB29を配備。そこから日本本土に大空襲を繰り返していけば、勝利は確実とみられました。
しかし、史実との相違点はノルマンディーの上陸戦失敗とルーズベルトが大統領選に敗北したこと。
政治的事情もあって、中部太平洋はトラックの要塞化のみ。侵攻ルートとしてはマッカーサーの要望を受け入れてフィリピンと決定したのでした。
主戦力に劣る日本軍としては、今までのような機動部隊同士の決戦では勝つ見込みが薄いと判断します。
小沢治三郎連合艦隊司令長官は機動部隊を囮として強力無比な敵の機動部隊を釣り上げ、その隙に大和・武蔵を中心とした戦艦部隊をレイテに突っ込ませて、上陸部隊を撃滅しようと計画するのですが・・・。


状況は史実のレイテ海戦に近いですが、日本軍の戦力はマリアナ海戦時よりも良い状態であると言えます。この世界ではソロモンやニューギニアにおける消耗がなかったせいもあるかもしれません。
とはいえ、機動部隊は正面切っての航空船を避け、艦載機のほとんどを戦闘機(紫電改零戦混在)に絞っているし、防空特化の戦艦(レパルス改め大雪)と巡洋艦(古鷹、衣笠、大淀)、駆逐艦(秋月級)が守りを固めています。
受け身一方の戦闘では大鳳が不運な爆沈もなく持ち前の頑強さを発揮しましたし、史実よりもよっぽどマシな防空戦を行い、多数撃墜した描写があります。
しかし、それでもエセックス級10隻による米軍の波状攻撃は防ぎきれませんでした。著者の最近のシリーズの中では、正規空母が被害を受けて沈んでいく方でしょうね。
紫電改の数をもっと揃え、太平洋戦争末期の米軍並みに磁気信管付き高角砲やボフォース機銃でもあれば別だったのかもしれませんが、史実よりマシ程度に済んだのは公平な結果でしょうか。
今回も米軍が執拗な攻撃をしかけたので、夜間での水上砲戦が発生。戦艦・大雪が38cm主砲を放ち、巡洋艦を撃沈するという珍しいシーンがあります。
空母の約半数が沈む犠牲を払ったのと、全体指揮官のハルゼーの判断によって、戦艦部隊は海峡までわずかな被害のみで接近することができました。
おそらくシリーズ屈指の山場になるであろう、戦艦同士の海戦は次巻になります。
果たして海峡の出口でT字で待ち構える米軍に対して日本軍がどう対応するか?
今まで出番のなかった北上・大井の名があることから、酸素魚雷による雷撃*1があり得るようですが、それだけじゃないかなぁ。
それからノルマンディーの上陸戦失敗とソ連が欧州席巻しそうな勢いを受けて焦るイギリスが日本との単独講和に動きましたね。そろそろ戦争の落としどころが見えてきました。

*1:射程距離が長いと命中率が落ちるし、かといって接近するとボコボコにやられそうだし。

中山七里 『テミスの剣』

テミスの剣 (文春文庫)

テミスの剣 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
豪雨の夜の不動産業者殺し。強引な取調べで自白した青年は死刑判決を受け、自殺を遂げた。だが5年後、刑事・渡瀬は真犯人がいたことを知る。隠蔽を図る警察組織の妨害の中、渡瀬はひとり事件を追うが、最後に待ち受ける真相は予想を超えるものだった!どんでん返しの帝王が司法の闇に挑む渾身の驚愕ミステリ。

著者のミステリーシリーズではお馴染みの渡瀬警部がまだ駆け出しの刑事であった頃のエピソードで始まります。
浦和市内のラブホテル街にあった不動産業者が夫婦で殺され、金庫からおよそ200万が持ち去られました。
被害者は不動産業の傍ら、高利での金貸しを行っており、顧客リストから容疑者を探します。
その中でもアリバイの無い者がない上、取り立てのために仕事を辞めざる得なかったことから、被害者に強い恨みを抱いていたのが青年・楠木明大。
警察へ連行された楠木は否認していましたが、ベテラン刑事・鳴海によって、暴力を伴う恫喝的かつろくに休みを取らせない長時間の事情聴取によって疲弊していき、ついには親との面会を餌に屈服します。
いわば鬼の鳴海に対して、渡部は仏役を演じ、ほぼ騙される形で楠木が自供すると、そのまま起訴されます。
裁判では楠木は一転して無罪を主張し、警察による不当な事情聴取があったと訴えます。
しかし、証拠がないために国選弁護人はやる気をみせず、裁判は検察優位に進み、死刑が確定。
絶望した楠木は刑務所内で自ら命を絶ったのでした。

5年後。渡瀬は連続強盗殺人事件を追っていましたが、その手口に記憶が刺激されます。
丹念な捜査で元錠前技師の迫水二郎を捕まえて尋問した結果、彼が5年前の不動産業者殺しの真犯人であったことが判明しました。
警察にとって迫水の自供は冤罪の証拠。まさしくパンドラの箱であり、闇に葬り去れという圧力が渡部にかかります。
渡部は迷った末に旧知の検察官・恩田に相談した上で冤罪暴露を依頼。
かくして埼玉県警には粛清の嵐が吹き荒れる、関係者は揃って左遷された末に辞職。告発者である渡部だけは蚊帳の外なのでした。
そして24年後、刑期*1を終えた迫水が出所して間もなく、公園のトイレで刺し殺されるという事件が発生。
管轄外にも関わらず、渡部は使命感に駆られて、迫水を殺した犯人を追うのでした。


楠木の件は、まさしく過去の冤罪はこうして作られてきたのだと納得する描写でしたね。
検挙率の高い凄腕刑事。逆に言えば、汚い手を使ってでも犯人に仕立て上げていくのだと納得してしまいます。
さらに真犯人が出てきて、冤罪であったことが判明後、警察署ぐるみで隠ぺいしようとする。自らの属する組織を守るためには法を犯すことも辞さない。
気持ちはまったくわからないでもないけど、犯罪を取り締まる警察がそれをやってはいけません。警察の存在意義に関わる事件でもあります。
無実の罪を着せられた楠木の遺族が悲憤し、警察を一切信用しなくなるのもむべなるかな。
捜査関係者の中で唯一渡部だけが直接遺族に謝罪に行き、当然歓迎などされるわけがなく、怒りをぶつけられるのですが、そこで渡部は誓うのです。もう二度と間違えないと。
シリーズの中で安易な結論に飛びつかず、執念深い捜査で真犯人に辿り着いた渡部の原点なのですね。

そんな中で横やりにも屈せずに迫水殺しの犯人を追っていく渡部はきわめて有能な猟犬のようでありながら、自らに課せられた正義の重みを感じて苦悩する孤独な刑事にも思えました。
犯人を探し出し、そのトリックを明かしたのは見事。前もって描かれていたヒントを見事に回収しています。
それだけに終わらず、謎であった釈放情報の手紙の持ち主に辿り着きます。
最後はなんともやりきれない結果に終わりましたね。渡部にとっては、最大の恩人であったはずの人物が正義とは無縁の自己本位の行動を取っていたことがわかっただけに。
正義の名のもとに明かした真実とはどうしてそこまで残酷なのかという思いでした。

*1:弁護士の活躍によって極刑回避。無期懲役となるも、模範囚として過ごしたために早く仮釈放となった。

GW中に観たアニメ映画

機動戦士Zガンダム A New Translation』
ガンダムの映像作品というと、私はファーストから始まって、Z、ZZ、そして『逆襲のシャア』、『F91』まで。その間の外伝でもある『ポケットの中の戦争』、『0083 STARDUST MEMORY』、『第08MS小隊』は全て観ました。
以降の作品はなぜか友人の薦めで半分程度観させられた『機動武闘伝Gガンダム』くらい。あとはゲームで知ったか、動画で少し観たくらい。最後に観たのは『THE ORIGIN』でした。
テレビ作品としてのZは公式な続編として、ファーストの主要人物が登場したり、どんどん人が死んでいく終盤の展開が衝撃的過ぎて強い印象が残っていますね。
Zの映画3部作は公開時には観なかったのですが、ちょっと気になっていたのでこの度観ることにしました。

テレビ放送時の映像に新しく作られた映像を組み合わされていたので、懐かしく感じつつ、途中まではややダイジェスト感はありました。というのも会話は短くて展開も早く、MSの名前を思い出すのが追い付かず、登場した人物があっさり死んでいくので。
最後のクワトロ(シャア)・シロッコハマーンという3大強キャラによる三つ巴戦がやはり強烈です。クワトロだけMSで劣る上に1対2を強いられるのが可哀そうなくらい。
カミーユはもっと尖っていたイメージがありましたが、多少改変されたのか、だいぶ素直な性格になっていたように思います。その代わりにカツの幼さが目立ちました。
地上編は限定されていたせいか、アムロの活躍がもっと見たかったですね。
全体的に女性キャラが目立っていたように思えます。ただし、Zの特徴として主なキャラはどんどん死んでいくので、悲劇的な印象は強いまま。
ラストは変えられて、カミーユの精神が無事に見えたのは良かったです。もっとも、親しい人の死や激闘の負荷はかかっているのは同じなので、仮に続編が作られても、再び戦争に出られるような状態にはならない気がしますね。
艦やMSの新しい映像はやはり良かったです。特にZガンダムは洗練されていて、歴代ガンダムの中でも最高クラスの恰好良さですね。






聲の形

【あらすじ】
ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。
自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。
やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。
再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが――。

2016年に公開されたこの映画。去年、TSUTAYA DISCASの会員になっていた時に観ようかどうしようか迷っていて、結局観なかったんですが、今年のゴールデンウィークに観ることができました。
冒頭のシーンの後、小六時代に遡り、先天性聴覚障害を持つ少女・西宮 硝子が転校してくるところから始まります。
主人公・石田 将也はクラスに1人はいそうな典型的な悪ガキというか、相当ヤンチャな子供ですね。
耳がまったく聞こえず、基本的に筆談でしかコミュニケーションの取れない硝子。耳が聞こえないことが関係するのか、話す方も舌っ足らずな幼児と同程度。
つまり、健常者のクラスメイトたちが合わせるのはなかなか大変なのでした。このあたり、担任含む大人のサポートがまったく足りていないように思えました。唯一、手話を教えようとした教師がいましたが、良い結果にはなりません。担任のやる気の無さというか、児童たちに対する大雑把さが目につきましたね。
とにかく、将也は周囲の女子が気を遣っているのを見るや、好奇心から硝子にちょっかいを出し始めるのですが、それが段々と悪い方(いじめ)へとエスカレートしていって…。

障害に対して理解の足りない子供とはいえ、将也の行為は許されるものではありません。
しかし、物語の核心はその後にありますね。
補聴器の件でクレームが入ったことで、いじめっ子から一転していじめられっ子に転落する将也。クラスあげての手のひら返しに愕然となります。たぶん、彼にとっては悪戯の延長のようなもの(たいていのいじめっ子は本気で悪いことをした自覚がない)。
そのショックや壊した補聴器弁償のために母親が多額のお金を渡して頭を下げたあたりで最低なことをした意識を感じるのですが、不器用な彼はイジメを受けたまま、ずっと孤立した日々を送っていくあたりがもどかしく思いました

時間は高校生に戻り、将也は誰とも馴染むことをせずボッチなまま。バイトで稼いだお金(補聴器の弁償金)を母親に返して、橋から川に飛び込んで命を断とうとするも叶わず。手話教室で硝子と再会して物語が動き始めるのですね。
将也が過去の行いを謝罪して、硝子が許してハッピーエンド……であったら、陳腐すぎて面白くはなかったでしょう。
再会して友達になれたからといって、将也を取り巻く状況はすぐに好転はしません。むしろ、悪化したりします。
そのあたりが複雑かつ惹き込まれていったところです。
石田・西宮それぞれ家の事情(声と足だけ登場した将也の姉についてはなんとなく察したけど、西宮家の母についてはもう少し掘り下げて欲しかった気がする)があったり、小六時の仲間に会いに行ったり。

将也・硝子以外の人物に対しても、強い印象が残りました。
例えば、川井はあまり責めたくはないけど、仲間の中では一番嫌なタイプかなぁ。八方美人で優等生。それはともかく、自らの罪を無意識になかったことにして、すべて他人(主に将也)のせいにしちゃう利己的なところがねぇ。
植野は生意気だし意地悪な部分が目立つけど、まだ川井よりは好意的に見られるかなぁ。直情的で、行動が空回りして将也は苦手意識を持ってしまうのが皮肉というか。
高校になって登場した永束は最初は馴れ馴れしくてうざったい感じに思えましたが、裏表がなく情に厚くて思いやりがある人物。親友というだけあって口だけじゃないですね。
同じく真柴はイケメンでいい奴に見えたけど、実は裏があるんじゃないかと思ってたら、映画では最後までいい奴だった模様(原作では冷徹な部分があるらしい)。

将也と硝子は互いに好意を抱くようになるのですが、この二人のすれ違いというか不器用ぶりが見ていて微笑ましかったですね。アシストする結絃*1も呆れ顔(笑)
あくまでも将也を主人公として、人間不信で顔を見られなかった彼が周囲に目を向け耳を傾けるまでが描かれているところ。将也の入院を機に硝子が殻を破ったかのように積極的に行動していくあたりが特に良かったです。街や自然の光景が美しかったのに加えて、心象風景に表し方もアニメーション映画ならではで惹き込まれるものがありました。
2時間を超える長い映画でしたが、やっぱり観て良かったと思いました。

映画『聲の形』Blu-ray 通常版

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  • 発売日: 2017/05/17
  • メディア: Blu-ray

*1:硝子の妹だが、ボーイッシュな格好だったので将也は彼氏と勘違いした。

吉村昭 『赤い人』

新装版 赤い人 (講談社文庫)

新装版 赤い人 (講談社文庫)

赤い囚衣の男たちが石狩川上流に押送されたのは明治14年のことだった。国策に沿ってかれらに課せられた死の重労働。鉄丸・鎖につながれた囚徒たちの労役で原野が切り開かれていく。北海道開拓史の暗部に横たわる集治監の歴史。死を賭して脱走を試みる囚人たちと看守たちの、敵意にみちた命がけのドラマ。

明治時代の北海道開拓においては、戊辰戦争で敗北した東北諸藩から移住してきた人々もいましたが、政府の財政基盤が弱いことで初期の開発はなかなか進まない状況でした。
一方、明治維新後に士族の乱が相次いだことから、各地の監獄はパンク状態。管理が行き届かず、脱走が相次いでいたようです。
そこで囚人を北海道に送って開発に従事させることにより、治安の面でもコストの面でも一石二鳥になると見込まれました。
明治14年、当地に監獄を建設がてら、開拓事業を行わせることが決まったのでした。
当時の北海道は札幌・函館を始めとした道南もしくは沿岸部しか開発されてなく、内陸はアイヌ人が点在する他は原野が広がる、未開の地とも言えました。
石狩平野が候補となりましたが、人が通れる道など少なくて、当初は船で石狩川を遡っているんですよね。
東京から連れてこられた囚人たち*1はこの世の果てに来てしまったくらいの絶望した様子が描かれています。
ちょっと現代では信じられないですが、まだ人が入ったことのないアフリカか南米の奥地に連れて行かれたような感じでしょうか。
現に候補地とされた石狩川上流の華戸郡須倍都太(すべつぶと)は有望な沃野ではあるものの、周辺は原始林と湿地に囲まれていて、たとえ逃げ出しても生き延びるのは困難な地。*2
そんな中で重労働を課せられた様子が詳細に描かれます。
季節が過ぎれば、追い打ちをかけるのは厳しい寒さ。今よりもずっと囚人に対する扱いが厳しい時代ゆえにろくな防寒具など与えられず、内地と変わらぬ囚人服で雪の降る中で労働すれば、凍傷にかかるのも当然でしょう。
病気に罹ってもろくな薬もなく、次々と亡くなっていく囚人たち。
しかし、内地からは続々と新たな囚人が送られてくる。
須倍都太だけでなく、他にも監獄が作られて、中には炭鉱での過酷な労働を強いられます。
さらに各地への連絡手段を取るために道路建設にも従事させますが、人力で原野を切り拓いていくのは想像以上に辛いものであったようです。
囚人たちは逃亡防止のために鉄丸・鎖に繋がれて、反抗すれば独房に入れられて食事を抜き、実際に逃げ出せば容赦なく斬殺。
タイトルは囚人たちが来ていた囚人服にちなんでいて、逃げ出しても赤い服はよく目立つのですぐに見つかってしまうのでした。
病死・事故死が相次ぎますが、民間に委託するよりもコストがかからず、内地からいくらでも補充は効く存在。温情を与えればつけあがるとして、看守たちはもっぱら厳しい態度で臨んでいました。
現地の囚人たちに対しては、いわば消耗品のような扱いであったことがよくわかります。
当然、囚人たちが看守に向ける憎悪は強いものであり、脱走に成功した途端に逆襲した事例もあったようです。
結局、開発が順調に進んだこと、内地が落ち着いて送られる囚人が減ったことなどから華戸の監獄は大正年間に廃止されました。
今と違って人命が軽い時代であったとはいえ、北海道開発の闇の部分が窺える内容でした。
最後の典獄(後に言う刑務所長のような立場)を務めていた人物は華戸の監獄がその役目を終えた後、その地の寺に入って死んだ囚人を弔うことになりました。看守としても非常に辛い役目であったのでしょうね。

*1:死罪・無期懲役・10年以上の有期刑といった重罪犯。

*2:近くに小さな開拓村がある他はアイヌ人が居住していたくらい

横山信義 『荒海の槍騎兵4-試練の機動部隊』

「作戦名は『金床』――金床を思い切り叩くハンマーのように日本艦隊を叩き潰して貰いたい」

日本の機動部隊をウェーク島近海におびき出して殲滅するという米海軍の作戦は失敗に終わり、逆に米軍の空母部隊が壊滅してしまった。だが連合艦隊の損害も大きく、日米両軍ともに積極策を採れなくなり一年半余――ついに米太平洋艦隊の再建は成る。新鋭空母エセックス級の群れが新型艦上機隊を搭載し出撃。マーシャル諸島を制圧し、勢いに乗る米艦隊は、マリアナ、トラックに攻撃を開始する。果たして米軍の主攻目標はどちらなのか。第一機動艦隊司令長官小沢治三郎中将は、ある決断を下す。

時は1943年の終わりから1944年にかけて。
連合艦隊司令長官山本五十六は米国との講和に向けて海軍大臣に就任。その後を古賀峰一に譲ります。
シンガポールを占領した際に破損したままドック入りしていたイギリス巡用戦艦フッドを鹵獲したものの、主砲の38cm砲は日本では生産してなく、空母改装案を始めとして議論を重ねた結果、戦時中ということで一番期間を短く済ませることに。
すなわち主砲はそのままで、多数の新型高角砲を備え付けた防空戦艦・大雪*1として生まれ変わりました。

開戦当初の大損害で稼働空母数が落ち込み、雌伏の時を過ごしていた米国はその工業力にモノを言わせて、開戦前を凌ぐ大艦隊を繰り出してきました。
その矛先となったのがマーシャル諸島
その猛威によってマーシャル諸島の基地は瞬く間に壊滅状態となります。
次なる標的はいずこか?
物量的に逆転した状況で、第一機動艦隊はトラックにて基地航空隊と協力して迎撃する態勢を取りますが、米軍が空襲を仕掛けてきたのはマリアナ諸島でした。


日米の機動部隊が真っ向から向かい合い、大規模な航空戦を繰り広げたのが今回の特徴です。
猛威を振るった米機動部隊は史実とほぼ同様の規模と内容です。
空母は全てエセックス級インディペンデンス級となり、一新された艦載機とか、レーダーの運用とか、そのまま再現されたら、どこであろうと対抗は難しい最強艦隊ですよね。
日本軍も零戦52型・彗星・天山に転換されているものの、物量を補うほどではありません。
あとは防空用に強化された戦艦・巡洋艦駆逐艦が頼りになるくらいか。
決戦は結論からすると、痛み分けと言っていいのでしょうか。
開戦以来の正規空母が沈み、艦載機も過半数を失ったのは痛いけれど、小手先の策が通用しない相手なので、当たり前と言ったらそうなのかもしれません。
夢はないけど、公平な結果なのだろうと思います。
いったん退いた米軍ですが、補充を受けて再度来襲するあたりがもうね。つくづくチート国家。
ただ、ノルマンディー上陸作戦はヒトラーがまともな判断をしたので、無残な失敗に終わりました。
また、次の大統領選の雲行きが怪しそうなので、もしかしたらルーズベルトが落選するのでしょうか?

*1:鹵獲艦は北海道の地名が付けられる慣習らしい。

不手折歌 『亡びの国の征服者3 魔王は世界を征服するようです』

家族の愛を知らぬまま命を落とし、異なる世界で新たな生を受けた少年ユーリ。
彼は騎士家の名家であるホウ家の跡取りとして入った騎士院で、王女のキャロルや魔女家の生まれであるミャロらとの交流を深めていた。
学業や訓練の傍ら、ホウ社での製紙業を成功させ、さらなる事業拡大を目論むユーリ。
全てが順風満帆かに見えたが、ユーリの目はやがて来たる祖国の亡びへと向いていた。
そして自分や大切な人々が生き残るための一手――“新大陸の発見"を目指し、ユーリは遠大な計画を推し進める。
そんな中、隣国であるキルヒナ王国に“もう一つの人類"であるクラ人の侵攻が迫っていた。
そしてユーリは女王から、隣国の戦争とキャロルに関わる一つの“厄介ごと"を頼まれることに……?
のちに「魔王」と呼ばれる男は、緩やかに、しかし確実にその運命を辿りつつあった――。

2巻から引き続き、主人公ユーリ・ホウの騎士学院生活が中心となります。
とはいえ、上級生となって卒業に要する単位はほぼ取得し終えてしまいましたので、商売諸々のエピソードが多いですね。
騎士院を代表して、教護院との斗棋対抗戦に出場。
順当に決勝まで進出したはいいが、相手がろくでもない魔女家の女子生徒。
ユーリは面倒ごとを避けるつもりで、1勝2敗で相手に勝利を譲るつもりが、実力不足もあって気づかず、大切な工場を放火するといった脅迫手段を取ってきたのでキレたり。
製紙工場を再建するにあたり、ホウ家の飛び領地を使用することにしたり。
機械工作の天才リリー先輩に天測航法に必要な計測機械を発注。その関係で煩悩を刺激される展開があったり。
それから、船を失っていたハロルに再度新たな船を任せることにして、貿易に乗り出して儲けを出したりと色々動いている様子が窺えます。
ここまでは(曖昧な部分もあるものの)前世の知識を使って、学生というより若き実業家として活躍しているユーリ。王族でありながら気さくな付き合いをしているキャロル、あからさまに好意を見せるリリー先輩、改めて男装女子であることがわかっても従前通りの付き合いを続けているミャロといった周囲と良き青春を送っているようにも見えますね。
とはいえ、利権を握る魔女家を始めとして、国としてはかなり危うい状況であることは強く感じます。

特に国外情勢は平穏からは程遠く。
隣国には十字軍が押し寄せてくることになっていて、母国シャルタからも援軍が出されることになってます。*1
次世代を担うキャロル、ユーリらに現実の戦争というものを見せておきたいという女王の願いにより、騎士院から観戦隊を出すことになります。
ユーリにとっては甚だ迷惑な話ですが、女王から呼び出されて直接依頼されたとあっては断ることもできず、隊長に就任することを条件に了承します。
現代と違い、観戦隊といえども下手したら命を失う可能性あり、ましてや王女であるキャロルが敵に見つかってはおおごと。ユーリの責任は重大です。
そんなわけで、ユーリは抱えている仕事の手当てやら、ミャロたちに希望者の選出を依頼したりと大忙し。
次巻の内容は観戦がメインとなるのでしょう。
無事に行かなそうな予感をひしひしと感じますね。
一度読んでいるだけにおおよその内容は記憶にあるのですが、ユーリとキャロルにとっては重要な転機となる展開が待ち受けているわけで、次巻が楽しみで仕方ありません。

*1:ホウ家は前の戦争で当主自ら特攻し、総大将を討ち取る代わりに壊滅しているので免除