13期・47冊目 『決戦!川中島』

決戦!川中島

決戦!川中島

内容紹介

累計8万部突破の「決戦!」シリーズ最新作!
武田VS上杉――戦国最強同士の激突、その時、二人の英雄は何を思うのか。

プロアマの激戦を見事突破した「決戦!小説大賞」受賞者も参戦。
原点にして、さらなる進化をとげる「決戦!」を見届けよ!!

武田勢
武田信玄――宮本昌孝
武田信繁――矢野 隆
真田昌幸――乾 緑郎
山本勘助――佐藤巖太郎(「決戦!小説大賞」受賞者)

上杉勢
上杉謙信――冲方
甘粕景持――木下昌輝
宇佐美定満――吉川永青

決戦!シリーズは最初に『決戦!桶狭間』を読んで、次にどれにいこうか考えた末に選んだのは川中島
武田信玄上杉謙信*1という戦国時代を代表するライバル同士。配下の武将や兵に至るまで精強を謳われた軍団同士が五度に渡って衝突した川中島の戦いは有名過ぎて映画やドラマでは見ましたが、わざわざ小説で読む機会は無かったように思います。
実は両者が北信濃を巡って激突していたこと。特に四度目の戦いでは激戦となりましたが、はっきりとした決着がつかないまま両者が消耗したおかげで織田信長徳川家康に利する結果となった気がしますね。
今、あえてその戦いを双方の視点から読んでみるのも面白いかなと思いました。


越後国守護代長尾家の次男として生まれた謙信を主人公とした冲方丁「五宝の矛」。
あまり知らなかった少年期から年の離れた兄・晴景とコンビを組んで越後一国を手中にしていく過程が詳しく書かれているのが良かったです。
上杉謙信と言えば生涯不犯を貫いたことで神がかり的でエクセントリックな性格だとか、果ては女性だったという俗説まで出ましたが、この中では幼い頃から人の隙を見ることに長けていて、それが優れた戦術眼を持つことになったという点に納得できました。


佐藤巖太郎「啄木鳥」ではタイトル通りに妻女山に立てこもった上杉勢を追い出すための「啄木鳥戦法」を生み出した山本勘助
信濃を取るために諏訪氏を謀殺した一方で、側室となった諏訪御寮人の美しさに心を奪われた老将の心境が描かれています。
啄木鳥戦法が破れた理由というのが戦国ならではの複雑な人間関係にあったということですが、策が破られてもなお主を守るために突撃した勘助の気概と忠節が印象に残りました。


吉川永青「捨て身の思慕」
こちらは上杉方の老臣・宇佐美定満。名は知られていますが、戦場での功に薄かったという彼が提案したのが海津城攻撃ではなく、いっそう入り込んで妻女山に籠ること。
武田方も首を捻った奇策は下手したら壊滅の可能性が高かったことが察することができます。
最後まで信じた謙信の器量と定満のタイトル通りとも言える忠節が輝かしい。


父・信虎から愛されて後継ぎの目もありながら、器量の面では兄・晴信に届かないことを悟り、弟というより家臣としての道を堅実に歩んだ武田信繁を描いた矢野隆「凡夫の瞳」。
兄弟で争うことの多かった戦国大名の中では珍しく、仲睦まじく忠実に兄を支える弟という評価がある信繁ですが、彼の中では様々に渦巻いているものがあったのだろうと腑に落ちる内容でした。
似たようなタイプの弟といえば豊臣秀長もいますが、兄より先に死してその存在の大きさがわかるというのも同じですね。


乾緑郎「影武者対影武者」はまだ元服したばかりで武藤喜兵衛を名乗っていた後の真田昌幸視点での第四次川中島の戦いを描いています。
父の真田幸隆(幸綱)ならともかく、合戦前の軍議に昌幸が出席していたあたり、有名な信玄と謙信の一騎打ちを目撃したあたりはフィクションっぽくは感じましたけど。
信玄の薫陶を受けた人物として、そういう夢があってもいいかもしれません。


木下昌輝「甘粕の退き口」
靄が立ち込める中を密かに妻女山から降りた上杉軍。背後から迫る武田の別動隊への抑えとして置かれたのが甘粕景持率いるわずか千名。
ここでは恵まれている越後に対して、土地が痩せていて他所から奪うことが前提にある甲斐の兵の方が精強であるとしていること。
武田を脅威に感じている甘粕の兵たちがいかに少数で殿軍を務めたかがみどころ。
上杉家の重臣たちと謙信との距離感がちょっと変わっていましたね。


宮本昌孝「うつけの影」
「甘粕の退き口」とは逆に上杉勢を精強に書いていて、個人的にはこっちの方がしっくりくる気がします。
桶狭間の戦いの裏事情を知って以来、常に織田信長を意識するようになった武田信玄を描いているのというのが新鮮。
実際に武田が上杉と五度も川中島で戦うことなく、早々に駿河や美濃に手を伸ばしていたら歴史が大きく変わっていたでしょうね。