不手折歌 『亡びの国の征服者1 魔王は世界を征服するようです』

内容(「BOOK」データベースより)

家族の愛を知らぬまま死に、異世界に転生した少年ユーリ。両親の愛を一身に受けながら新たな人生を歩むユーリだったが、彼の住む国家群は“もう一つの人類”の侵略によって亡びの危機に瀕していた。槍を振るい鳥を駆る王国の剣―騎士家。そんな騎士家の頭領だった叔父の戦死は、ユーリとその家族を戦乱の運命へと巻き込んでいき…!?「小説家になろう」で話題の超本格戦記譚、ついに開幕!

小説家になろう」の原作はこちら。
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孤独な青年が小学生を助けたはいいが、濁流に飲まれて死に、まったく別の世界に生まれ変わります。
耳が長い以外は人間と変わりない種族の牧場主*1ルークの息子ユーリとして生を受けました。
中身は大人とはいえ身体は小さいまま。心温かい両親に恵まれた上に田舎暮らしが性に合っていたのか、ゆっくりと馴染んでいく様子が描かれます。
父の牧場で育てているのはダチョウのような鳥のカケドリ。それに空を飛ぶ天鷲といった人が乗る生き物にユーリは魅せられます。
ただ、彼らシャン人はクラ人という種族(耳は長くなくて、ほぼ人類と同じ)と長らく敵対していて、遠く離れた地では戦争が起こっている。さらに地図で確かめるとシャン人が住むのはほぼスカンジナビア半島であり、大陸側から攻めてきている背景が書かれています。
ユーリの父の実家ホウ家は半島でも南端にある関係で、同盟国に援軍に赴く役目があるという。
話が進むうちに子供のユーリにも種族間戦争の影響が及んでくる中、父がホウ家を継ぐ話に騎士学校への入学と人生に関係する大きな出来事が起こるのでした。


連載当初から読んでいた作品で、もう5年経つんですね。
現世で死んで異世界に転生という定番パターンでありながら、魔法やスキルの類は一切無く、きわめてリアルに即した世界観とよく練られたストーリーにたちまち魅入られてしまったのを憶えています。
途中で1年くらい休載していたこともあって、子供時代の出来事や登場人物があやふやになっていましたので、こうして最初から書籍として読めたのは幸いでした。
従姉妹であるシャム、騎士学校で同級生となる王女キャロル、ミャロやドッラといった主要人物との出会いのエピソードが懐かしかったです。
普段は冷めているくせに、キレると容赦ないユーリの片鱗が早くも出ていましたね。
ちなみにキャロルとの初対面は書籍版オリジナルらしいし、彼女との関係が一気に変化した終盤の展開はかなり加筆されているんじゃないですかね。非常に良かったです。

ある意味ネタバレなんですが、この作品は重要な人物がわりとあっさり死にます。
ここまで名前を挙げた中にもユーリと深く関わりながら悲しい死を迎えてしまう人物がいます。
そういった死をしっかりと描き、ユーリの人格形成に強く影響させるあたりが多くの「なろう」異世界転生小説とは一線を画しているかもしれないです。。
その場面を読むのはきっと辛くなるのはわかっていながら、続きを書籍として読みたい気持ちは強いです。

それと、原作を読んでいた時に登場人物の名前について思ったこと。
「ギュダンヴィエル」といった特別な例もあるけど、だいたい姓名ともに短いです。
覚えやすい反面、区別がつきにくくて、久しぶりに登場したら「誰だっけ?」となりました。
母のスズヤ、伯母のサツキみたいに一部の女性だけ和風名だと逆に目立って印象強くなるんですけどね。

*1:将家と呼ばれる武将の血筋だが、次男の父は家を出て牧場を営んでいた。