不手折歌 『亡びの国の征服者6 魔王は世界を征服するようです』

家族の愛を知らぬまま死に、二つの人類が生存競争を繰り広げる世界に転生した少年ユーリ。
彼は亡びゆく隣国キルヒナ王国から避難民を連れ出し、わずかな兵でクラ人の“十字軍”の追撃を振り切って初陣を勝利で飾る。
しかし隣国が滅びを迎えることは、ユーリ達の住むシヤルタ王国にもう後が無いことを意味していた。
そんな中、王都へと帰還したユーリのもとに長らく航海に出ていたハロルから吉報がもたらされる。
新大陸発見――歴史に大きく刻まれるであろうこの報せを受け、ユーリは喜びに震えながらも生存のための計画を静かに次の段階へと移行するのだった。
戦争の後処理や未来への課題は残しつつも、日常を取り戻していくユーリ達。
しかし、戦場でキャロルと結ばれたことで、ユーリを取り巻く交友関係も大きく変わっていき……?

前巻でユーリは滅亡寸前の隣国キルヒナ王国から女王の依頼で王女と避難民を連れ出し、追撃を振り切って無事シヤルタ王国に帰還しました。
そして、友人や家族との再会。鷲から落下して消息不明との報が伝わっていただけにユーリを迎えた人々の喜びはひとしおです。特にリリーの感激ぶりにはにやついてしまいます。
出征した夫や恋人、家族が無事帰還するというのはこういうことなんだなぁと深い感慨を覚えますね。

建前上は勝利を収めたということで式典が催されますが、それとは別にユーリは内密に女王に招かれて詳しい話をしました。
その際にキャロルが同席するのは当然として、次女のカーリャまでもが同席してひっかきまわすんですよね。ユーリとしては学院で冷たくあしらっていたはずなのに、なぜかカーリャはユーリにぞっこんな様子。英雄となったからというのもあるのでしょうが、後で理由がわかってきます。

そうして戻ってきた日常。
それより、こちらの世界でいう大西洋横断の旅に出ていた船が帰還して、新大陸発見の報を受けたのがかなり嬉しかったようです。*1
これで、いざという時の逃げ場所を見つけられたのは大きい。地理はユーリの前世の知識と合っていたものの、ここからが大変です。開拓を進めなきゃいけませんし、並行して秘密保持に頭を悩ませます。
経済を握る魔女家に知られたら、必ず横やりを入れてくるでしょうから。

ところで、逃避行中に結ばれたキャロルとは、帰還後は忙しくてろくに会う暇もなかったのですが、ひょんなタイミングで逢引することに。
国のトップを継ぐ王女といえど、恋をしている女の子らしさが垣間見られて良かったですね。
さらにキャロルの妊娠が明らかになり、覚悟を決めたユーリはプロポーズします。
後から思えば、ここが幸せの頂点だったんだよなぁ。
結婚を決めたことにより、両家の顔合わせ食事会が催されるのですが、これが平和の終りとも言える象徴的な事件になってしまうのでした。

少しネタバレすれば、ユーリにとって愛する人との別れであります。これ以降、黒幕たる魔女家への怒りは留まることを知らず、内戦への道を突き進みます。

今回の最後のシーンはWebで読んでいましたが、当時は大きな衝撃を受けたものです。
なろう系の小説でここまで書ききるというのはなかなかできないのではないでしょうか。
いわば魔王への一歩を踏み出すきっかけであるわけですが、半端な覚悟じゃ反応が怖くてできません。
でも、主人公にそれを乗り越えさせる展開を読ませてくれるのが作者の実力でしょう。
読む報はハラハラドキドキで、つい目が離せなくなってしまうのです。

*1:ちなみに原住民は存在せず。いない設定にした理由はあとがきに書いてある。要は原住民との接触やら対立、交渉やら書かなくてはならなくなり、本筋がずれてしまうから。