不手折歌 『亡びの国の征服者4 魔王は世界を征服するようです』

家族の愛を知らぬまま死に、二つの人類が生存競争を繰り広げる世界で新たな生を受けた少年ユーリ。
彼は騎士院で学ぶかたわらでホウ社の事業を拡大し、いずれ来たる祖国の亡びを見越して“新大陸”の発見を目指していた。
そんな中、隣国のキルヒナ王国と“もう一つの人類”であるクラ人の遠征軍――“十字軍”との戦争がついに始まろうとしていた。
そしてユーリは女王の要請により、王女キャロルをはじめとした学生からなる観戦隊を率いて、前線を視察しに行くことに。
隊長として初めて隊を率いるユーリは、単身で下見も行い、万一のことが無いよう万全を期していた。
前線とはいえ、王鷲による上空からの視察。
この旅路には本来、大きな危険など無いはずだったが……!?

クラ人(通常の人間)とシャン人(ほぼ人間と同質であるが、外見的には耳が長い)による人種間闘争が長く続いている世界。
クラ人たちはシャン人を一方的に悪魔のような敵として、国家連合による十字軍を編成して攻めていました。
現実の地理でいえば、欧州大陸のほとんどを領域としているクラ人によって、シャン人の国家はスカンジナビア半島の二国家のみ。
前話からの続きでのシャルタ王国では隣のキルヒナ王国の防衛戦に援軍を送るだけでなく、将来の軍人たる騎士院の生徒たちに観戦するよう王命がくだったのでした。
主人公ユーリは観戦隊の隊長として、王女であり副隊長のキャロルや秘書的な役割を担っているミャロと協力しながら隊員を選抜していました。
道中の補給物資にいたるまで念入りに準備を整えた上でいざ観戦の旅に出発。
拠点となる村の宿の経営者が逃げ出すなどのアクシデントはあったものの、ほぼ予定通りにキルヒナ王国に入ります。
ひょんなことでユーリはキルヒナ王国軍と援軍であるシャルタ王国軍の軍議に居合わせることになりましたが、柔軟性を欠き旧弊化した将軍たちに先行きの不安を覚えます。
観戦隊は王鷲による上空からの視察のみ。敵は空を飛ぶ手段を持たないので、よほど高度を下げないかぎりは危険はないと思われました。
それゆえ、一隊を率いたユーリ自身はあらかじめ用意していた試製火炎瓶にこれまたリリー先輩に頼んで作ってもらったライターで着火して、物資集積場に落下。
見事大量の物資を炎上させます。
観戦ばかりでなく、味方に利する行動を無事終えて本隊に合流しようとしたところで、なんと敵兵が騎乗した飛竜が味方の王鷲を襲っているのを目にします。
特に敵は目立つキャロル*1を執拗に狙っている様子。
是が非でもキャロルを助ける必要に駆られたユーリは高度を取って、飛竜に襲い掛かります。
翼に槍を打ち込むも、尻尾による反撃に遭い、ほぼ相打ちの形で森の中に落下。
奇跡的に軽傷で済んだのですが、その代わりに長い付き合いだった王鷲が下敷きになり、救うことは無理と悟り、最後を看取ります。
離れた場所に落ちた敵竜兵を討ち取り、キャロルと合流するも、彼女は足を骨折していたために背負いながらの苦しい逃避行が始まるのでした。

4巻の部分はweb版でも読んでいましたが、舞台が戦場に移ったこともあり、緊迫感溢れる濃い内容でした。
なんといっても森の中での逃避行がメイン。
ユーリだけならばともかく、怪我を負ったキャロルも背負わなければならないというハンデ。王族が落ちたことを知った敵は追手を差し向けるのを撃退していく描写がみどころです。
まさにユーリの戦闘およびサバイバル能力が存分に発揮されていますね。
敵に追われ続けるユーリたちが無事逃げられるのか。また親密さを増す2人の関係。そういった意味で先が気になり、夢中になって読んでいました。
こうして書籍版でまとめて読めて満足です。
世界観的にも銃器が普及し始めた時代であり、その有用性を知るユーリが味方に説明したり、いち早く火薬を戦闘に利用するあたりが面白かったです。
リリー先輩やミャロ、イーサ先生といった脇を固める人物も魅力溢れています。
逃避行前半の締めくくりがとても良いシーンでした。続きの次巻が楽しみです。

*1:金髪は王族の証なので。