道造 『貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士1』

最強騎士(の貞操)は狙われている――

現代日本から男女の貞操観念が真逆の異世界に転生し、その世界では珍しい男の騎士として育てられた辺境領主ファウスト
前世の価値感を持つが故に、女王のほぼ全裸な薄着姿や巨乳公爵からのセクハラ的スキンシップに股間を痛める日々を送る彼だが、ひとたび戦場に出れば英雄的な活躍をする超人でもあった。
そして第二王女ヴァリエールの相談役として、彼女とその親衛隊の初陣に同行することになったファウスト
しかし単なる山賊退治と聞いて赴いた村では、予期せぬ惨劇と試練が待ち受けていて……!?

原作はweb小説投稿サイト・ハーメルンで連載されていた作品です。
https://syosetu.org/novel/238974/
書籍化にあたって加筆されている他、外伝が2話追加されています。

転生した先は男女の比率が1:10の女上位となった異世界(中世~近世のヨーロッパ風世界)。男女の貞操観念は逆転していて、男はか弱く守られるべき存在となっています。神聖ローマ帝国をモデルとした王国の辺境領主家に生まれた主人公ファウスト。この世界では珍しく男子の跡継ぎとして教育を受け鍛えられたこともあって、堂々たる体格を誇る偉丈夫。ただ、この世界の常識では男子が戦うなど異常であり、例えるならば女だてらに男と轡を並べる女騎士みたいな扱いをされていました。

物語が始まる以前、敵国ヴィレンドルフからの侵略に対し、第一王女アナスタシア、ならびに王女相談役のアスターテ公爵と共に戦い、敵の司令官にして英雄たるレッケンベルとのすさまじい一騎打ちの結果、見事討ち取るという大戦果をあげ、2人とは戦友として深い結びつきを得ていました。同時に2人から惚れられているんですが、本人だけは気づかない。むしろ怖がっています。いわく、アナスタシアは人肉でも食っていそうな目つき。アスターテ公爵は人前で堂々と尻を揉んでくる変態だと。

そんなファウストは第一王女のスペアである第二王女ヴァリエールの相談役になり、彼女の親衛隊と共に第二王女の初陣に付きそうことになります。初陣といっても、数の少ない山賊退治であり、気楽な任務だと思われていました。
しかし、辿り着いた先の村では村民(女性ばかり)の多くが殺され、数少ない男性は賊に拉致された後だったのです。実は近隣の領地で跡継ぎ争いが起き、姉殺害に失敗した次女が財宝を奪い、配下を引き連れて逃走。途中で遭遇した山賊を吸収した後に隣国ヴィレンドルフへの亡命の手土産として村を襲ったのでした。
その数はヴァリエールとファウストの手勢の倍以上と聞き、ファウストは撤退を進言しますが、ヴァリエールには引くに引けない理由がありました。初陣が失敗した暁にはファウストを姉たちに奪われてしまうという約束があったからでした。

タイトルとあらすじだけ見れば女に囲まれたハーレム的要素を思い浮かべますが、実はかなり骨太の戦記ものなんですよね。貴族の慣習など背景はしっかりと書き込まれているし、戦闘シーンも迫力あり。ふと、ファウスト目線では戦っている相手がすべて女だと思うと、その状況や心情に興味が湧きます。アマゾネスを相手にしているようなものでしょうか。ファウストも初陣は大変だったのではないかと。
堅いだけでなく、貞操逆転ならではといいますか、ファウストをめぐる女たちの性欲にまみれたアホな言動にも笑えます。主人公は本当はモテるのですが、まったくわかってなく、無防備な女性たちを前に股間が辛い日々。というわけで冒頭の台詞「チンコいたいねん」(笑)
女王、第一王女、公爵、他にも第二王女の親衛隊長のザビーネなど一癖も二癖もありそうな女たちが登場しますが、その中で唯一ファウスト目線で普通の女の子っぽいのがヴァリエールです。彼女も例にもれずファウストに心惹かれていきます。
ただ、外伝2の「ヴァリエールIFグッドエンド」Fと書かれているということは、このまま続くと結ばれないのかなってちょっと残念に思いました。まぁ、ファウストを狙う女は数知れずですからヴァリエールの目指す道が険しいのは確かでしょうね。