飴村行 『粘膜蜥蜴』

内容(「BOOK」データベースより)
国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた…。

かつて著者の『粘膜人間』を読み、独特の世界観やグロ描写などに衝撃を受けたものです。
『粘膜人間』に登場した異形は河童でしたが、今回は爬虫人〈ヘルビノ〉という種族が存在する世界。時代設定は第二次世界大戦。東南アジアに進出していますが国内は平穏な様子なので、太平洋戦争序盤にあたるでしょうか。

内容は3部構成となっています。
1.町で絶大な権力を持つ月ノ森総合病院の院長の息子、月ノ森雪麻呂から自宅に招待された、堀川真樹夫と中沢大吉。大金持ちの息子らしく珍しいものを見せびらかす雪麻呂に感嘆の声しか出ない2人でしたが、病院地下の死体安置所に連れて行かれた時から雲行きが怪しくなって…。
2.真樹夫の兄・美樹夫は陸軍士官学校を卒業したばかりの少尉で東南アジアの小国・ナムールに赴任します。ある村まで貿易商の間宮を護衛していく任務を命じられました。道中はゲリラが跋扈する危険な密林地帯を抜けていく必要があったのです。
3.月ノ森雪麻呂は婚約者である従姉の魅和子に恋焦がれていましたが、従弟の清輔が対抗心から自分こそが婚約者にふさわしいと言い出すようになりました。雪麻呂は父になんとかしてもらいたかったのですが、母が謎の失踪を遂げてから父は人が変わってしまい、自分でなんとかするしかないのでした。

登場人物の中でまともなのが堀川美樹夫と真樹夫の兄弟でしょうか。両親を失っている上に兄は戦地で遠く離れているためにお互いを思い合う気持ちの強さが伝わってきます。
美樹夫が護衛する間宮は相当な曲者なのですが、行動の方向はともかく、この時代の日本人らしい熱意を持った人物だと思えます。
個人的には第2部が読み応えありました。戦中に東南アジアに出征した兵士は同じような苦労をしてきたのだと偲ばれます。
第1部と3部の雪麻呂には権力を持った放蕩息子ならではの我が儘ぶりにはイライラさせられましたね。事故とはいえ死人が出ても揉み消そうとするクズっぷり。それだけに最後にちょっとだけ胸のすく結末でした。
あと、雪麻呂がずっと抱いていた疑問に対して意外な事実が明かされます。これは最後までわからなくて、うまくやられた思いです。父親がなんか怪しいなと思ってはいたんですが、”演技”に騙されました。