不手折歌 『亡びの国の征服者5 魔王は世界を征服するようです』

家族の愛を知らぬまま死に、二つの人類――シャン人とクラ人が生存競争を繰り広げる世界に転生した少年ユーリ。
クラ人の“十字軍"による隣国キルヒナ王国への侵攻を受け、彼は騎士院の生徒からなる部隊を率いて前線へと視察に赴いた。
王鷲による上空からの視察に危険は無いはずだったが、急襲してきた竜騎士と相討つ形でユーリとキャロルは墜落。
孤立無援の戦地で負傷したキャロルを背負い、ユーリは安全圏を目指すことに。
そして追手の一団をからくも撃退した夜、キャロルはユーリに想いを告げるのだった。
墜落から十日間以上かけて、どうにか拠点に使用していた村にたどり着いた二人。
そこに残されていたミャロからのメッセージを元に、ユーリは一計を案じ……?

前巻から続く敵中からの逃避行。甘い雰囲気で朝を迎えたと思いきや、2人を追ってきた敵の隊長カンカーとの壮烈な戦いで幕を上げます。双方負傷を抱えた中での死闘の末、なんとか勝利を収めたユーリはたちはその場を発ち、無事に前線基地としていた村に辿り着きます。
今度の戦争はシャン人の敗勢濃厚となっていて、すでに仲間たちは撤退した後。しかし、ミャロの手紙が残されていて、ある準備が整えられていることを知ったユーリは一計を案じます。
それは敵の偵察隊をおびき寄せて倒し、馬を得ること。
首尾よく偵察隊を屋敷内におびき寄せた後に地下にあった火薬を爆発させます。奪った馬を駆って、ようやくリフォルム城への生還を果たすのでした。
とはいえ、王都リフォルムにも遠くないうちに敵の大軍が来襲するのは確実。自身の部隊を率いてシャルタ王国へ帰るユーリに対して、キルヒナ王国女王から依頼を受けます。それは王女と若い兵300、それに避難民約1000人をシャルタ王国へ連れていくこと。
確実に時間がかかることを承知の上でユーリは依頼を受けたのでした
一方で十字軍側では脱走者によって竜殺しユーリとシャルタ王国王女キャロルを逃してしまい、リフォルムから出発したことを知ります。情報を入手したアンジェリカは仲の悪い兄帝ではなく教皇領の騎士団を率いる大司馬エピタフを頼ります。エピタフは船を使って河口から上陸して追うことを決定。かくしてユーリは執拗に追ってくる十字軍との最後の戦いに備えるのでした。

劣勢な中で工夫を凝らした戦い。*1迫力のある戦闘描写。キャロルはもちろんのこと、ミャロやドッラといった仲間たちとのやりとり。Webで一度読んでいるにも関わらず、先がどうなるか気になりながら読めました。
吊り橋効果もあったのかもしれませんが、厳しい逃避行の中で助け合いながら危機を脱したユーリとキャロルが結ばれた4~5巻は本当に読み応えありましたね。
ユーリ自身は転生者で中身は冷めていますが、この世界では武名を轟かせているあたりが面白い。敵方からすると後の魔王の片鱗がすで現れていると言っていいのかな。
とにかく、作品全体からするとようやく序章を終えようとしているところです。
クラ人国家のうち片方が滅亡しようとしているところで、残るシャルタ王国が十字軍に対してどのような対応を取るのか。ただ、魔女と呼ばれる女性特権階級が牛耳る王国の先行きには不安が残ります。まさにタイトル通りの展開に近づいていくんですよね。

*1:クライマックスのズック橋付近の戦闘がわかりやすく加筆されている。