5期・76冊目 『ずっとお城で暮らしてる』

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

ブラックウッド家は村の外れに広大な敷地と立派なお屋敷を持つ。そこにはメアリ・キャサリンとコンスタンスの姉妹と伯父の3人が住み、過去にあった毒殺事件から村人とは距離を置いて暮らしている様が描かれます。
足が不自由な伯父と過去の事件で疑惑を抱かれた為に一切外に出ない姉に代わりに、村へ買いだしに出かけるメアリ・キャサリン。多数の村人からの悪意に晒されながらも一人立ち向かうさまに当初は健気さを感じました。
しかし3人によるささやかな幸せの日々は、従兄のチャールズが登場したことによって変化を見せます。
なんというか、空想を弄ぶメアリ・キャサリンの行動には無邪気さの中に狂気が隠れているようで理解がたいのですが、彼女からすると家を守るという使命のもとに筋が通っています。外界の人は一貫して邪悪な者として扱う。そして姉や伯父からすると、とても素直で可愛い娘なんですよね。毒殺の件が気にかかるがどうにも憎みきれない。
このチャールズにしても一見常識人のように見えるけど、妹の目線からすると家を汚す俗物(伯父を邪険に扱い、コンスタンスに気があるようにもみえる)であり、早く追い出さなければならない存在のわけです。
そしてチャールズとメアリ・キャサリンの対立の中で屋敷は火災に見舞われ、野次馬として集った村人による破壊まで加わる。そんな中でもメアリ・キャサリンの気概は衰えない。
結局、外界からの接触を一切絶ってしまい、引き篭もった屋敷の中で何度も繰り返す姉妹の「幸せだよ」という台詞に常識とかけ離れた狂気を感じるのです。