11期・60冊目 『タイムトラベルSF傑作選』

タイムトラベルSF傑作選

タイムトラベルSF傑作選

日本のSF作家によるタイムトラベルおよびタイムマシン関連の短編を集めた作品集となっています。
収録作品は以下の通り。
始めの8篇がショートショートとも言える作品。後半の3篇が中編程度の長さです。


「発明奇譚」 横田順彌
「時間の輪」 石原藤夫
「インタビュー」 森下一仁
「親殺しのパラドックス」 石川喬司
「ABCとXYZ」 眉村卓
「レーシング・ドライバーの自画像」 高齋正
「決定的瞬間」 福島正実
「敵艦見ユ」 広瀬正
「幼児誘拐作戦」 小松左京
ペニシリン一六一一大江戸プラス」 光瀬龍
「白村江」 豊田有恒


ショートショートの方はアイデアものであるのと同時にユーモアにも溢れていて、読み終えた直後にニヤリとさせられるものばかりですね。
「親殺しのパラドックス」はタイムトラベルにはつきものですが、アメリカンジョークのように実は父親が違う人物なのかと思いきや人工授精だったというネタ。これが書かれた頃は未来的な手法だったのでしょうか。
「ABCとXYZ」はタイムマシンによって結婚直前と結婚してから何年も経ったカップルが時を超えて再会。トラブルの予感しかありません。
「決定的瞬間」は第3次世界大戦のきっかけとなった原爆投下の瞬間を見に来たタイムパトロールの話ですが、なんとも皮肉な結果となっています。
タイムマシンが発明されると、どんなに気を付けていようが、やっぱり歴史への干渉は避けられない運命なのか。
「敵艦見ユ」はかの有名な日露戦争における日本海海戦で、司令長官・東郷平八郎がT字を描く敵前回頭を決断したのはいったいどういう理由においてか?
そこに時間旅行者の介入はあったのか?
比較的史料の豊富な近現代であっても、人の記憶の曖昧さが歴史を作り上げていく面白さを感じさせます。
「幼児誘拐作戦」は以前、著者のタイムパトロール集で読んだことがあるけど、もう一回読んでもやっぱり面白かったですね。
赤ちゃんを誘拐するという点である程度予測できますが、ラストが壮快です。
ペニシリン一六一一大江戸プラス」と「白村江」はさすがに歴史にも詳しい著者だけに歴史ものとして読みごたえは充分にあるのですが、タイムトラベルとしてはさほど捻りもなくて面白みに欠けます。
「白村江」は同著者で同じタイムパトロール員が登場する『異聞ミッドウェー海戦』収録の「白村江異聞」の方が面白かった気がしますね。