11期・58,59冊目 『乱神(上・下)』

乱神(上) (幻冬舎文庫 た 49-1)

乱神(上) (幻冬舎文庫 た 49-1)

乱神(下) (幻冬舎文庫)

乱神(下) (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

若き名執権・北条時宗が闇に葬り去った驚愕の真実とは?北九州大学の考古学者、馬渡俊が九州の海岸で棒状の物体を発掘した。800年近い歴史を刻み込んだ中世ヨーロッパの剣―。この発見が日本の歴史を覆す!圧倒的なスケールで描かれた新感覚歴史ロマン。

北九州の沿岸に漂流してきた白人の一行。
彼らは十字軍としてイングランドを発したものの、イスラムの軍に敗れて船に乗って逃げ出し、東へ東へと流されてインド洋や東南アジアを超えてきた騎士エドワード率いる兵士と水夫たちでした(殺されるところを助け、エドワードに奴隷として仕えるイスラム人含む)。


彼らが漂着してきた時期はちょうど元寇、つまり文永の役(1274年)の直後であったため、異相の外国人集団ということで余計に過敏な反応をされてしまい、大勢の武士たちに囲まれて、あわや処刑となるところでした。
しかし、移送中に潜りこんでいた元軍の兵士の一部と遭遇して戦闘。
その際に武士たちと共に奮戦、エドワードが毒矢を浴びた安達泰盛の嫡子・泰宗の命を救ったことから客分として遇されることになります。
捕虜を尋問して、再び元軍がこの地に信仰してくることを知ったエドワードらは日本武士の強さを認めつつも、外敵との戦闘経験の無さや集団戦闘に徹しきれない意識のままではとても元軍を防ぎきれるとは思えまないのでした。


貴族から武士による体制づくりに移行した鎌倉時代
内乱に次ぐ内乱を経て、ようやく北条氏による執権政治が固まってきた頃に降ってわいた元寇という国難
まったく戦闘文化の異なる元軍(実態は高麗・南宋軍が多かった)との戦闘は日本の武士をして大いに混乱させたと聞きます。
そこにもし、異敵との戦闘経験がある十字軍の騎士が辿りついて、アドバイスすることがあったら?という一見荒唐無稽ながらも歴史の想像心をそそる設定の作品です。


神のために戦う敬虔なる十字軍騎士であるエドワードを中心にやや粗暴な義弟アラン、奴隷にはなったが好奇心旺盛で異文化の摂取に積極的なイスラム人ザフィル、通訳としてつけられた南宋商人などを通して、当時の日本文化が詳しく書かれていきます。
日本の人物ではなく、まったく接点の無い西欧人の目を通して描かれるのが興味深いですね。
元軍を迎え撃つにあたって、日本の武士や馬の長所短所が赤裸々に描き出されます。
長弓の威力や見た目以上に白兵戦能力が高いのに比べて、個人の功名心が強すぎるあまりにまったく集団戦に向かないというのは納得。


来たる元軍の再来(弘安の役(1281年))に向けてのエドワードは博多の地にて水際防衛のために実地指導を行いますが、それが効果的であっても、時宗を始めとする武士たちにとっては革新的過ぎるのですね。
戦の行方と同時にその落としどころをどうするのかが気になってゆくところです。
プロローグにて大学の講師が西洋の剣を発掘しているところから、その結末は想像ついたのですが、歴史をベースにしたもう一つの元寇の戦いぶりに胸が熱くなりました。
難点としましては、エドワードに南宋の商人が鎌倉など日本のことを説明する際、資料からそのまま抜き出してきたような硬い内容ゆえ、会話としては現実味が薄く感じたところでしょうか。
まったく日本のことを知らない外国人に説明する際はいろいろと噛み砕く必要があるんじゃないでしょうかね。