8期・75,76冊目 『ジーンズの少年十字軍(上・下)』

ジーンズの少年十字軍〈上〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈上〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈下〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈下〉 (岩波少年文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
オランダの少年ドルフは、知りあいの博士が発明したタイムマシーンに乗って13世紀へ―。思いがけず彼は何千人もの子どもたちの真っただなかに巻きこまれてしまう。この大集団は、羊飼いの少年ニコラースの率いる少年十字軍だった!中学以上。金の石筆賞、ヨーロッパ歴史児童文学賞受賞作。

主人公の少年ドルフは父の友人が開発したというタイムマシンを見学している際に自ら人体実験を申し出て、13世紀頃のドイツへとタイムスリップしてしまいます。
旅の学生レオナルドとひょんなことで親しくなったりして中世を満喫していざ戻ろうとした時にとんだハプニングが。
現代に戻るには決められた時間・場所にいなければならないのですが、途中で大集団の子供の行列に巻き込まれてしまいます。
目の前にある約束の場所になかなか辿りつけずに行列の中でもがくうちに、たまたまその場所にいた少年がふっと消え去ったのを見てチャンスを逃したことを知る。
そのとんでもない行列(ケルンを発した少年十字軍と知る)を見て放っておけなくなって、友人になったばかりのレオナルドと共に旅することになります。
中世風にルドルフ・ファン・アムステルフェーンと名乗り、現代の知識を生かしての活躍が始まるのです。


少年十字軍とは羊飼いの少年ニコラース、それに二人の修道士に率いられて、出発地であるケルンから貴族の子弟が何人か付けられた他は地域の孤児や身分の低い子供らがちょっとした冒険気分で集まって8千人の規模に膨れ上がったとのこと。
エルサレムを解放せよとの神の声を聞いたというニコラースには奇跡を起こす力が備わっているので、イタリアのジェノヴァまで行ってモーゼの如く海を断ち切ってエルサレムへの道を開くという。
現代に生きるドルフにとっては信じがたい話ですが、科学の「か」の字も無くすべては神の思し召しというのがこの時代の常識。
早々にそういった時代感覚の壁にぶちあたるのも致し方ありません。
それでも統率も取れずに脱落者を出しながら無秩序な集団と化した少年十字軍の姿を見かねて、ドルフは現代人らしい合理性と積極さ・指導力を発揮し介入してゆく。
少年少女それぞれの能力に応じた役割分担とグループ分けなどを行い、次第に遠征軍らしく統制された集団に生まれ変わっていくさまが面白い。
実はこの時代に自己主張し命令を出すことができるのは貴族に限られるわけで、自然とドルフは貴族の子として影のリーダー的な立場にみなされるわけですね。
そして身分に関わらずに協力しあうことによって子供たちも生き生きとしていく。
そうなると面白くないのがニコラースと二人の修道士(実は偽物)。
牛車に乗りテントで過ごす彼らは具体的な計画も無ければ子供らのことなど何も考えてなく、衆望を集めたドルフと意見がぶつかるようになるわけです。
信仰心が何よりも大切なこの時代ではドルフの持つ合理性が時には神を恐れぬ悪魔的な行動として標的にもなる。
そうして途上で何度か危機的な状況に陥ってハラハラさせられるのですが、レオナルドや途中で加わったタテウス修道士ら友人の支援と機転をきかせて何とか乗り切っていきます。
大人でさえ悪魔を恐れる心理を逆に利用して、拉致された仲間を救う場面はとても愉快でしたね。


途中で人数が減るにしても十代前半から半ば程度の少年少女たち数千人の大集団がドイツ北部からアルプス山脈を越えてイタリアへと向かう。
無謀とも言えるこの試みは史実が元になっていることが驚きでもあります。*1
wikipedia:少年十字軍
現代のように整備された道路などなくアルプスでは道なき険しい山や谷を往く。
当然食料は自給自足で、病にかかってもろくな治療はできません。
自然の脅威だけでなく、時には途中の領主や農民が敵*2になることもある。
少年十字軍を襲う困難に苦心惨憺するドルフの気持ちが手に取るように感じます。
ジェノヴァに着いても奇跡など起きるわけなく、寸前で偽修道士の邪な目的に気付いたドルフたちはどうするのか?いったいドルフは現代に戻れることができるのか?
最後まで彼らの旅の行末が気になってしまいます。


対象中学生以上のティーン向けとして書かれたものなのですが、大人が読んでも充分に楽しめる内容でしたね。
娘が中学生になったら是非読ませてみたいと思いました。
ふと思ったのですが、時代に関わらず一地方から8千人もの子供がいなくなるって大変なことではないかと思うのです。
なんとなくハーメルンの笛吹男を思い出したのですが、一説によると関連あるみたいですね。

*1:確か騙されて奴隷として売られたという悲劇的顛末について記憶にあったけど、それはフランスの少年十字軍だったらしい

*2:数千人分の食料調達のために農地や湖水を荒らすから