11期・32冊目 『赤目 ジャックリーの乱』

赤目―ジャックリーの乱

赤目―ジャックリーの乱

内容(「BOOK」データベースより)

十四世紀半ばの北フランス。百年戦争の果てない戦乱に蹂躙され、疲弊しきった農村に一人の男が現れた。人心を惑わす赤い目を持ったその男・ジャックに煽動された農民たちは理性を失い、領主の城館を襲撃、略奪と殺戮の饗宴に酔いしれる。燎原の火のように広がった叛乱はやがて背徳と残虐の極みに達し…。中世最大の農民暴動「ジャックリーの乱」を独自の視点で濃密に描く、西洋歴史小説の傑作。

百年戦争をテーマにした著作を多数出しており、私自身もノンフィクションの『英仏百年戦争』に加えて小説『双頭の鷲』(ベルトラン・デュ・ゲクラン)や『傭兵ピエール』(ジャンヌ・ダルク)など読んでいました。
本作はポワティエの戦い(1356年)で国王ジャン2世自身が捕虜となるほどの大敗を喫した後のフランス国内。
戦争が終わって解雇された外国の傭兵たちはそのまま素直に戻るわけでもなく、むしろ収穫を終えた後の農村を襲って回るのでした。
戦争のプロである傭兵たちに村民が刃向えるわけもなく、たちまち抵抗する男は殺され女は犯され、食料を奪われ家は焼かれて村は荒廃していく。


そんな中でサンルー村も同じように傭兵たちに襲われ、生き残った村民たちはやり場のない怒りに身を震わせていました。
復讐しようにも当の傭兵たちは騎馬で遠くに去ってしまい、毒にも薬にもならない能書きを垂れる牧師に八つ当たりするしかない。
そこで主人公フレデリが以前から私淑していた托鉢僧ジャックに指南を請います。
赤目を光らせたジャックが言うのは「領民を保護しようとしなかった領主が悪い」。
勢いのまま城まで攻め上がると、平時はたいして守備兵もおらず、あっけなく落ちてしまいます。
たちまち村人たちは城内を蹂躙。今まで奪われていたものを取り返すとばかり、欲望のままに領主の娘を集団で犯し、略奪を果たす。
各地の村を糾合した農民の反乱は拡大し、いくつもの城を落とし、一大勢力となります。
貴族を殺し奪うことが正義となった集団の中で、生来の気弱さで馴染めないでいるフレデリ。
偶然出会った婚約者と同じ名の修道服の少女・マリー*1を匿うことになったのですが、暴力に支配された連中の中でただで済むわけもなく、ざらついた欲望と混沌の中で彼もまた変わっていくのでした。


いわゆるジャックリーの乱(1358年)をその渦中に置かれた農民の少年の目から描いた内容になります。
後の市民革命の萌芽がなくもないですが、そこで描かれるのはひたすら暴力と凌辱の連鎖。
官能バイオレンス小説ばりの描写が延々と描かれ、歴史に残る大乱も、男女の感情のもつれから始まったという内幕。
まぁ、ジャックリーの乱自体がわずかな史料の記述しかない中で、よくぞここまで人間の愛憎ドラマとして膨らましたなと思います。だいぶ憎に偏っている気はしなくはないですが。
しかも統率者とされるギヨーム・カルルが脇役で、異説で伝わる指導者ジャック・ボノムと貴族夫人ブリジットを重要な乱の役どころに置いているのですから。
人間の内面を赤裸々に描くことに定評ある著者ゆえに単なるエログロにならず、まさに当時のありさまをそのまま切り取ってきたような、時代の雰囲気が存分に伝わってきたのは確かです。

*1:終盤で主人公と別れた後、彼女がどうなったのかが書かれていないのが気になった