8期・77冊目 『スペースオペラ大戦争』

スペースオペラ大戦争 (角川文庫 緑 377-22)

スペースオペラ大戦争 (角川文庫 緑 377-22)

豊田有恒氏の「大戦争」シリーズで未読が一冊あったことに気づきました。
今回はタイトル通り宇宙が舞台ですが、なんと時代を超えて古今東西の人物たちが暴れまくります。


死相が出て24時間以内に死ぬだろうと占われてしまった主人公は自暴自棄を起こした挙句にその通り事故で死んでしまうのですが、なぜか31世紀の地球に生まれ変わります。
その時代では宇宙に進出した人類が海老に似た異星人と遭遇した際に勃発した戦闘で軍隊が全滅。
残っているのは戦う意思も能力もない者ばかり。*1
地球の危機に瀕した人類の指導者らはタイムマシンを使って闘争心溢れる過去の英雄たち(特に非業の死に斃れた人物たち)を生き返らせて、代わりに戦ってもらおうと計画したわけです。
31世紀に集められた歴史上の人物たち。
日本の例で言えば、源為朝源義経楠木正成などの武将、高杉晋作を始めとする幕末の志士に新撰組赤穂浪士たち、それに明治〜昭和の戦争で散った軍人まで。
もちろん海外組もアレクサンダー大王を筆頭に名の知れた歴史人物がズラリ。
そんな中で歴史ジャーナリストの端くれであるだけで特に武力が優れているわけでもない平均的な日本人である主人公が選ばれたのはなぜか?
それはこたびの作戦は20世紀に出版された『スペースオペラ大戦争』(豊田有恒・著)というSF小説がヒントになっており、それに主人公がなんらかの関わりを持っているということで記録係として呼ばれたそうな。


かくして時代も場所もバラバラな人々が一挙に蘇生されたわけで、いきなり内輪揉めさえ始めてしまうほどでしたが31世紀の状況に次第に慣れてくるに従い、それぞれの出自を超えて地球を守るという大義名分のもと、協力しあうようになっていきます。
味方をまとめるには敵を作るのが一番とはよく言いますからね。
しかもこの異星人が人と似ても似つかぬグロテスクな身なりだったのが敵愾心を持つには好都だったりするわけで。
コンピュータに頼り切りで快適な生活を送っていた31世紀人に比べて、戦いの中に身を置き闘争本能が研ぎ澄まされていた過去人は最新のテクノロジーで作られた兵器さえも余裕で使いこなし、たちまち戦力として整っていくのです。
とはいえ、元の時代の装備にこだわったり馬や象を欲しがったりと難題も山積みで、蘇生組の中では最も31世紀に近い主人公は雑用係として奔走する羽目になって大変そう(笑)
かくして地域別に建造された宇宙戦艦群は地球を発ち、連合艦隊として敵惑星を目指すのです。*2
乾坤一擲の大作戦を指揮するはこれも蘇生した山本五十六
果たして異星人との決戦に勝利することができるのか!?*3


歴史とSFの融合というよりはそれぞれの美味しいところをつまみ取りしたような、あんまり深く考えずに軽く読める作品ですね。
逆にそのハチャメチャな展開は深く考えちゃ楽しめません(笑)
とはいえ、現代日本人を皮肉っている部分は刊行されて30年経っても通じてしまうところに視点の鋭さを感じました。


【おまけ】
パラレルワールド大戦争
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20090517/1242561409
『タイムスリップ大戦争
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20090807/1249656161

*1:現代日本で言えば自衛隊が全滅して外国の軍隊を前に民間人しかいない状況だろうか

*2:日本の宇宙戦艦が富士山と芸者をあしらった銭湯の壁画みたいなカラーリングというのが納得いかない。宇宙戦艦ヤマトにすればよかったのにね。でもクレームがくるか…

*3:山本五十六と聞くと真珠湾奇襲はまだしもその後のミッドウェー海戦を連想して不安になってしまったが