5期・83冊目 『ダイノサウルス作戦』

ダイノサウルス作戦 (ハルキ文庫)

ダイノサウルス作戦 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
恐竜の繁栄する白亜紀後期末に降り立った調査隊が、何者かに襲われ、ソネ教授と助手が拉致された。タイムパトロール隊員のヴィンス・エベレットは、生き残った調査隊員を伴い救出に向かうが、その時代でヴィンスたちが目撃したものは、武器を使いフタバスズキ竜を攻撃するドロマエオサウルスだった。さらに人間ではない何者かが、時空を超えてヴィンスたちに襲いかかってきた―。不朽の名作SF。

白亜紀と言えば恐竜の全盛時代。後に彼らは生物として絶滅してしまうのですが、その原因については久しく論議が続けられているのはよく知られています。*1そのちょっと前の時期が舞台となっていて、調査隊拉致の調査に絡んで、やはり絶滅の原因にも触れられるのかなとわくわくして読み始めたところ、謎の異星人やら哺乳類まで含めた進化の謎まで出てきて予想以上にスケールの大きなストーリーとなっていました。


いやまず驚いたのが、武器を使って集団で狩りを行い、原始的とは言え住居をかまえた集落を営んでいるドロマエオサウルスの存在。図体はでかいが脳が小さく環境適応力に劣るのが昔の恐竜のイメージでしたからね。*2
さまざまないきさつの末、謎の異星人との戦いによってタイムマシンと基地を失ったタイムパトロール隊員のヴィンス・エベレット一行は、勇猛な戦士であるドロマエオサウルスの狩りに助勢*3した結果、彼らの集落に居すわることに。
それにしても語彙は少ないもののはっきりと言葉によるコミュニケーションを恐竜と図れるなんて。人間でいうと、縄文時代くらいの発達レベルでしょうか。戦士としての矜持を賭けたヴィンスと酋長との戦いが見ものでした。
実はそのドロマエオサウルスの生態が後半の異星人(後に「異類」と表現)との正体に関わってきます。


たとえ孤立無援だとしても、タイムパトロール隊員として豊富な経験と優れた能力を持つヴィンスの活躍により、異類の捕獲そして敵タイムマシンの奪取に成功。彼らは文明も容姿も人間と似ているようでどこか生物として決定的に違う様が見受けられます。そしてなぜか白亜紀は人類と異類がそれぞれ大規模な基地を持って睨み合いを続けている状態であることがわかるのです。
互いに相手の進化過程を調べたり、より前の古生代ペルム紀にタイムスリップした結果、地球上における種としての進化を賭けて決着をつけざるを得ない展開となります。東アジア史に詳しいヴィンスが「不倶戴天の敵」と評した通り、敗れた方は退場せざるを得ないのです。これ以上詳しいことは書けませんが。
ただし、人類と異類は戦争状態にあるわけではなく、紳士協定を結んでいる関係であり(調査隊が拉致されたりヴィンスが戦ったのは行き違いがあった)、むしろ彼らの性質が好ましく書かれているのが面白いですね。ヴィンスに至っては、最初出会ったルルハを捕虜として遇している内に友情を覚えてしまいます。*4
決戦の結果、何がどうなったのかは触れませんが、きちんと恐竜絶滅の謎に結び付けられているのが納得。もしそんなことがあったとしたら、タイムマシンが運用されている23世紀になるまで何が起こったのか判明できないだろうなぁ(笑)


かつては恐竜の興味を持っていた私ですが、約30年前に書かれた作品とは言え、古生代から中生代にかけての生物の進化について初めて知る内容有り、そして新たな興味を湧き立てられましたね。しかもこの分野は新たな発見によって、どんどん進歩しているようです。現在人間として進化してきた過程に様々な種が滅んでは生まれてきた遥かな歴史を思うと、いろいろと調べたくなってしまいました。

*1:隕石激突による気候変化説が有力となっているらしい

*2:ドロマエオサウルスが大きな脳を持つ温血動物だったという従来の恐竜観を覆す存在であるのは確かそうだが、本編では著者による脚色はあるらしい

*3:本当はいけないんだけど、色々と事情あって

*4:最終的に友情を超えてしまったのにはびっくり。たぶんヴィンスの腕の中で消え行くという切ないシチュエーションのためだろうな