7期・53冊目 『多聞寺討伐』

多聞寺討伐 (扶桑社文庫)

多聞寺討伐 (扶桑社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
黒羽郷の多聞寺周辺では、怪事件が続発していた。その日は、賭場で揉め事を起こした男の首が突然落ちるという異常事態が起こった。それだけではない。なんと、男の胴体は自分の首を拾い、血の海の掃除をはじめた!奇怪な寺へ向かった武士団が見た地獄とは―山寺に巻き起こる、想像を絶する凄絶な戦いを描いた表題作他、単行本未収録「大江戸打首異聞」をふくめ、未来人の視点から歴史の狭間を照射する、光瀬龍の時代SFの傑作を網羅。

江戸時代、未来からやってきて時代人のふりをしながら悪さをする時間犯罪者とそれを取り締まる時間局員(いわゆるタイムパトロール)の攻防。主にそんな設定で書かれた11編の短編集です。
普通の庶民が時を超えてやってきた未来人の秘密に触れてしまった奇譚だったり、御用聞き(目明し)の身分に隠した時間局員による時間犯罪者の取り締まりだったり。一見時代劇風な中にタイムマシンなどの未来技術や次元を超越した闘いなどがあってSFの趣向を凝らしてあります。
あとがきにある通り、もともと歴史好きだったという著者だけに江戸の庶民の長屋暮らし、それも上辺だけでなく男女の情のあたりまで踏み込んで細かく描かれていて、時代小説としても秀逸な内容と言えるのではないでしょうか。
ただ一冊の短編集としては、途中まで同様な内容が続く割にはちょっと物足りないというか飽きがきますね。一つ一つとしては決して悪くはないのですけれど。
11編は多いというか、もう少し編集に工夫あっても良いのではと思いました。
そういう意味では最後の「歌麿さま参る」(現代の質屋に日本刀や絵画の歴史的名作が続々と持ち込まれる。不思議に思った主人公たち(実はタイムパトロール)が江戸時代にタイムスリップしてその原因を探る。)がストーリー仕立ても巧い上に写楽の正体という歴史上の秘密にも触れていて一番楽しめました。