7期・52冊目 『鍵のかかった部屋』

鍵のかかった部屋 (角川文庫)

鍵のかかった部屋 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
自称・防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)榎本と、美人弁護士(実は天然!?)純子のコンビが、超絶トリックに挑む!貴志祐介にしか考えつけない、驚天動地の密室トリック4連発!密室ミステリの金字塔、ついに登場。

個人的な事情による恥を晒しますと、まず最初に『ガラスのハンマー』を読んでいて、その後にドラマ『鍵のかかった部屋』が放映されているのを見て、『ガラスのハンマー』は防犯探偵榎本径シリーズの一つだったんだと思ったまではいいのですが、シリーズ1作目だと思いこんで本書を手に取ってみたものの、実は『ガラスのハンマー』⇒『狐火の家』*1と続くシリーズ3作だったとは途中まで気がつかなかったという次第。
まぁ前作の事件や人物が登場することもありますが、それぞれ独立した短編なので、本作だけでも楽しめます。


「佇む男」
山荘にてモルヒネの多量摂取によって死亡した葬儀会社社長。鍵がかかった密室状態であったが、内部はどう見ても不自然な状態であることから顧問司法書士の依頼により、榎本&純子が調査に乗り出すことに。
確かに自殺を装うには不審過ぎる状態なわけですが、密室のトリックが葬儀会社ならではの知識を活かしたもので素人には到底考え付かないですね。


鍵のかかった部屋
かつて空き巣として名を馳せた会田は刑期を終えて亡き姉の家族である義兄・甥・姪の住む家を訪ねる。
しかしそこで見たのは完全に密室となった部屋で一酸化炭素中毒によって死んでいた甥の姿だった。
元空き巣の会田の錠破りの技術が密室を構成するのと同時に破る際にも重要なキーとなっているわけです。
鍵がかかるということ自体がトリックとなってて、本作の中でも一番秀逸な作品だと思います。


「歪んだ箱」
結婚を控えた高校教師の杉崎にとって、唯一の頭痛の種は震度4の地震によって欠陥工事が明らかになった新築マイホーム。
工務店の社長との交渉に埒が明かないと知るや、歪んだ家を利用したある計画を実行する。
家全体が歪んでおり、鍵がかかっていないのに扉を開けたり閉じたりできないという特殊な状況をうまく活かしていますね。
ただそれ以外は、いろいろ犯行にツッコミどころありますすが。


「密室劇場」
舞台の本番中に前座の芸人の一人が控室で死亡。大勢の客や劇団員のいる衆人環視の中でどうやって犯人は逃げ出したのか?
前3編と違って、芸名やら台詞やらコメディムードが漂う短編なんですが、ギャップの違いというか、どちらかというとシリアスが似合う密室破りとは相性良くないと思うのですが。


物理の応用や特殊な機器など様々な知識を駆使した密室のトリックを解いていくさまは確かによくも考え付くものだと感心させられます。
それに冷静沈着な榎本と天然ボケの青砥弁護士という一風変わったコンビの絶妙なやりとりが最大の持ち味でもあると思います。
ただ、最後を除いて犯人探しは無くて特定されている状況。あくまでも密室を破ることにテーマが絞られているので、割り切って読むべき内容でしょうね。

*1:タイトルだけ見て、著者の有名作『黒い家』から連想してホラーかと思った