11期・34冊目 『そして扉が閉ざされた』

そして扉が閉ざされた (講談社文庫)

そして扉が閉ざされた (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

富豪の若き一人娘が不審な事故で死亡して三カ月、彼女の遊び仲間だった男女四人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた。なぜ?そもそもあの事故の真相は何だったのか?四人が死にものぐるいで脱出を試みながら推理した意外極まる結末は?極限状況の密室で謎を解明する異色傑作推理長編。

目覚めた時には見知らぬ地下室にいた男女四人。
三か月前に死亡した富豪の一人娘・咲子と生前付き合いがあり、葬儀に顔を出さずにいたが、四十九日にわざわざ母親から呼ばれた際にしつこく飲むように促されたジュースに睡眠薬が仕込まれていたらしいのです。
どうやら眠らされた間に運ばれ閉じ込められた模様。
そこは水道と電気が通じている他、約十日分のカロリーメイトがあるのみ。
洗面所には「お前たちが殺した」のメッセージと死んだ娘の写真。
しかし、その娘・咲子は警察により、車ごと崖から海に落ちて事故死したはずでした。
確かに四人は死ぬ直前の咲子と諍いはありましたが、直接殺したわけではないのです。
なのに母親は彼らが殺したと信じてこんでこんなことをしたのか?
もしかしたら本当にこの四人の中に殺人犯がいるのか?
ここが事件が起こった別荘の裏にあるシェルターだと推測した四人は救助の見込みは薄く、自分たちだけでなんとか脱出しようと足掻きます。
そして咲子の死は本当に事故であったのか、当日の互いの行動を検証する中で疑心暗鬼が芽生えつつあるのでした。


本作は密室で起きた事件ではなく、密室での謎解きというのが一番の特徴です。
途中で偶然見つけた小道具を除けば、頼りとなるのは互いの記憶のみ。
会話メインで明らかにされていく当日の行動とそれぞれ抱えていた感情。
当然ですが、誰もが自分は犯人ではないと主張する中で、本当にこの四人の中に犯人がいるのか?それとも別の可能性があるのか?*1
最後の最後まで気にかかってしまいます。
結末自体は呆気ないといえばそうですが、そこに至るまでが脱出への試行錯誤と合わせて充分読み応えある内容として仕上がっていますね。
多少読んでいてもどかしい気はしましたが、わずかな材料でよくぞここまで構成したものだと思います。


その一方で登場人物は悪い面ばかり目立って、さほど魅力的でないんですよねぇ。
主人公・雄一は大学卒業後、バイトしながらバンド活動。ライブをきっかけに親しくなった咲子に手を出すも愛想を尽かす。しかしずるずる引きずったまま別荘に招かれた際に咲子の友人・鮎美に一目惚れしてアプローチをかける二股男。
一応、ヒロイン扱いなのか、咲子の友人・鮎美はしっかりしていそうで、婚約者と主人公の間で揺れ動いて態度をはっきりさせない。
鮎美の幼馴染で親が決めた婚約者の正志。彼自身は鮎美を慕っているものの、どうやら一方通行の模様。四人の中では一番まともかもしれないけど哀れな役どころ。
咲子のもう一人の友人である千鶴はトリプルデートの誘いに彼氏が帰省してしまったと嘘をついて来た女。友人に劣等感を持っていて、咲子にバカにされて大喧嘩する。わざわざ自分からトラブルに関わりたがるように見受けられる不思議な性格。
被害者の咲子自身も富豪令嬢にありがちな鼻持ちならない高飛車でカッとなりやすいな性格。雄一曰く、恋人をアクセサリー代わりにしていたという。
当日のトリプルデートも恋人の雄一を友人に自慢しようという意図があったとか。
そんなわけで、よくある若い男女の恋愛のもつれとは言えそうですが、登場人物に感情移入できずにちょっと引いて読むしかなかったのが残念な点ではありました。

*1:被害者の性格からして自殺の可能性は否定されている