34冊目 『アイスマン。ゆれる』

アイスマン。ゆれる

アイスマン。ゆれる

内容(「BOOK」データベースより)
山本知乃は、病弱な母親と二人暮らし。ごく平凡な女性だが、一つだけ、特殊な能力があった。祖母譲りのまじないで、男女を相思相愛にする力だ。ただし、体に大きな負担を掛けてしまう副作用があるのだが。そんな知乃にも、心から好きな男性ができる。ところが、親友の鮎美も彼に思いを寄せて…。揺れる三十代女性のほろ苦く切ない運命を描く、傑作恋愛ファンタジー

ヒロイン・山本知乃の隠れたあだ名はアイスマン
それは月下氷人という四字熟語が元になっているという。

げっか-ひょうじん【月下氷人】
縁結びの神。転じて、男女の縁の仲立ちをする人。仲人なこうど。媒酌人。▽略して「氷人」ともいう。


月下氷人 故事
中国晋の令孤策が、氷の上に立って氷の下の人と語り合った夢を見た。占いの人に夢占いをしてもらったところ、氷の上と下というのは陽と陰で男女を示し、『詩経』の句に「若者よもし妻をめとるならば氷の溶けきらない冬のうちに」というのは婚姻に関することであるから、おそらく婚姻の媒酌をして氷が溶ける前には成立する前ぶれであろうと言い、そのとおりになったという故事から。

かつて祖母の遺品にあった呪いを遊び半分で試したところ、男女を熱烈な相思相愛にさせたことに端を発します。
ただし儀式を行うと高熱にうなされるなど酷い副作用が起こり、それは行うたびに悪化していることは本人のみ知る秘密。また自分自身には呪いの効果はない。
そして知乃自身はかつて付き合った男性に酷い仕打ちにあったことや病弱な母と暮らしていてその世話に縛られていることから、結婚は諦めている三十代女性。
客観的に見て決して魅力が無いわけではないものの、キャリアウーマンの友人と比べて退屈な人生を送っている自分に引け目を感じており、何かと引っ込み思案なところに読んでいるこちらももどかしさを感じてしまいます。


ある日、高校時代に淡い恋心を抱いていた同級生・東村が地元に転勤になったことで再会。
姿も中身も素晴らしい大人になった彼に本気で惹かれてゆくのがわかります。
しかし親友にして誰もが振り向く美人である鮎美も東村に思いを寄せていることを明かされてしまいます。
もう一人の親友・和衣がアイスマンの力で電撃結婚を決めたことから、鮎美も東村との仲を取り持つことを知乃に依頼してくるのですが、自身の恋心、そして今度儀式を行うと生命の危険があることを”ある者”に警告されたことにより、知乃の心は大いに揺れるのです。


あくまでも男性目線ですが、母親のこと、友情、そして恋心に揺れる知乃の心理描写が巧みですんなり感情移入できました。
本当に呪いに効果があるかについては大きなポイントですが、結果的にそれだけに縛られないように描かれていたのが良かったですね。
終盤に劇的な展開が用意されていますが、著者らしい心温まるハッピーエンドを迎えるので読後感はとても良いです。
余談ですが、ヒロインたちが集う料理屋の品がどれもこれも本当に美味しそうに描かれていて、空腹時には目の毒です(笑)