35冊目 『猫のいる日々』

猫のいる日々 (徳間文庫)

猫のいる日々 (徳間文庫)

内容紹介
飼っている猫が常に10匹以下になることはなかったという、著者の猫に関する随筆、小説、童話集。

私にとって大佛(おさらぎ)次郎という作家はかろうじて名前だけは知ってはいたものの、人物としてはまったく知らず、その著作を読む機会もありませんでした。
期間としては大正年間から昭和40年代、『鞍馬天狗』シリーズを始めとして、歴史小説・現代小説・ノンフィクション・童話や歌舞伎の脚本まで幅広い活動を行っていたそうですが、同時に無類の猫好きとしても知られていたようです。
wikipedia:大佛次郎


戦前から晩年まで書かれた猫に関する多数の随筆、そして短編・童話を収録したのが本作となります。
本編にも書かれていますが、著者自身は子供の頃から自宅で飼っていたこともあってとても身近な存在だったそうで、早くから作品にも登場するくらいですが、それが加速するのは家庭を持ってから。
飼猫は多くて十数匹、少なくとも10匹以下になることはなかったという。
餌だけもらいにくる通いの猫も含めて猫屋敷と化している様子がうかがえます。それを江戸時代の大名に準えて猫の譜代・外様と称していたとか。
はじめ夫人は猫嫌いであったが、世話をする内に大の猫好きになってしまったそうです。
去年から私も猫を飼い始めたことからわかるのですが、猫好きは感染するらしい(笑)
それにしても、うちなどは一匹でさえ世話が大変なのに、野良猫を含め面倒を見てきた猫の数は500匹を下らない(夫人談)というからすごい。
最初は特徴に応じて名前を付けていたものの、あまりに多くて追いつかなくなってしまいます。
数がいれば悪戯する猫もいて、人が猫たちに振り回される日常であり、それに対する不平もなくはないです。
それでも子猫から老齢の猫まで、病気や怪我をしていても平等に著者の猫に対する愛情が感じられますね。
喧嘩しないようにそれぞれ餌を用意してあげたとありますが、猫たちが揃って食べる様子は壮観であっただろうし、天気の良い日に10匹以上の猫たちが日向ぼっこするさまを思い浮かべるとこっちまでニヤニヤしてしまいますね。
なぜそこまで増えてしまったのかというと、この家なら猫を世話してもらえると黙って猫を捨てていく人がいるから。
いつの世にもペットを捨てる人がいるようで、猫を愛するがゆえに最期までその生涯を看取ってきた著者がそういう自分勝手な人たちに対しての憤るのもよくわかります。
そうやって身近で見てきただけに猫の習性など実に細かく書かれています。
それは著作にも生かされており、『赤穂浪士』はじめ猫が登場する作品は多いようです。
収録されている童話は終戦直後の時代設定ですが、猫を主人公としたほのぼのとするお話でした。
猫好きならいろいろ頷ける部分も多くて楽しめる作品ですね。