- 作者: 紀田順一郎,東雅夫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/07/08
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
イギリスに伍して、怪奇幻想小説の最も広大な沃野と、奥深い背景を備えている国は日本である。民話、説話から近世の草双紙を辿り今日にいたるまで、妖異奇談の類は膨大な数にのぼる。この傑作集は、日本の怪奇小説が最大限のおもしろさと多様性を発揮した、明治以降の精華を選りすぐったものである。読者よ、本書を手がかりとして、“もう一つの文学史”の発見に到達されんことを。
明治大正期の文豪による豪華な怪奇小説ラインナップ。とは言うものの、私自身名前はよく知っていても、実際この人たちの作品を読んだのって学校の授業以来ですよ。しばらく遠ざかったました。
目次を見て、小泉八雲と江戸川乱歩に関しては怪談・怪奇ジャンルの大家として御馴染みだったけど、こんな人も怪奇小説を書いていたのかという意外性を感じたのです。いや、紹介にあった通り、日本の文学史上ごく親しみやすい分野だからこそでしょうか。
書かれた時代ゆえか作品設定が明治大正のものが多く、その頃の日本の世相がよく伺えます。*1文明開化の時代と言えど、怪奇不思議人外の存在を畏れる気持ちはずっと深く、素材も多かったのでしょうね。*2そういうわけか、海外ものより日本人の感性に訴える作品が多いです。
個人的にお気に入りはまず江戸川乱歩「鏡地獄」。鏡の持つ不可思議さに魅了されて徐々に狂っていく様が素晴らしい。*3
そして谷崎潤一郎「人面疽」。映像という媒体を通したホラー話は現代でも多いですが、人面疽という古来の奇病譚*4をも融合させた稀有な作品。
大佛次郎「銀簪」は恨みを残して死んだ女がいつ祟るのかという緊迫感の中で、度肝を抜かれた意外なラスト。
とりわけ怖かったのは田中貢太郎「蟇の血」。主人公の男性がちょっとした親切心でいきずりの女性を助けた縁で誘われたものの・・・。屋敷で出会った人々の異常さや、よくわからない肉片を争って食べる庭の蛇(?)のシーンで、否応無く逃れられない恐怖に突き落とされるんですねぇ。