8期・40冊目 『オルゴォル』

オルゴォル

オルゴォル

内容(「BOOK」データベースより)
「実は前から、ハヤ坊に頼みたいことがあってなぁ」東京に住む小学生のハヤトは、トンダじいさんの“一生に一度のお願い”を預かり、旅に出る。福知山線の事故現場、父さんの再婚と新しい生命、そして広島の原爆ドーム。見るものすべてに価値観を揺さぶられながら、トンダじいさんの想い出のオルゴールを届けるため、ハヤトは一路、鹿児島を目指す。奇跡の、そして感動のクライマックス!直木賞作家による感動の成長物語。

小学四年生のハヤトは同じ団地に住む顔見知りの老人(通称トンダじいさん)から、“一生に一度のお願い”として古いオルゴールを託される。
いつの日かそれを鹿児島まで持って行って、ある人に渡すこと。
まだ小学生なのでいつ行ってもいいことと、交通費としての2万円に釣られて(それで携帯ゲーム買いたくて)、つい安請け合いしてしまう。
今すぐは無理だから大人になったら行けばいいかと気軽に考えていたハヤトだが、その三か月後にトンダじいさんが孤独死したことと一緒に話を聞いた友人の手前、次第に重荷に感じるようになってしまう。


冒頭から読むかぎり、ハヤトは目の前の楽しみに心奪われ周囲に流されがちな、どこにでもいそうなやんちゃな小学生男子ですね。
ただ、父親が会社の不正を告発したことがきっかけになって職を失い両親が離婚。現在は母子家庭で暮らしており、母親との仲はそこそこいいのですが、最近男の影がちらつき帰宅が遅くなるようになって悶々としているという状況です。
春休みになって、母親の仕事の都合で祖父母のところに預けられることになったのですが、むしろハヤトは大阪にいる父の元に行きたいと言い出します。
その裏にはしばらく会っていない父にトンダじいさんのオルゴールのことを相談し、あわよくば鹿児島まで持って行ってもらえたらと目論むのですが・・・。


東京から大阪への一人旅。初めての街で見聞きする習慣や話し言葉の違い。
そして数年ぶりに会った父がそこで女性(ミチコ)と暮らしており、しかも身ごもっているという。
ハヤトにとっては驚きの連続です。
しかもそれにとどまらず、オルゴールの件を話したところ、ちょうど九州へと旅に出るミチコの友人・サエさんと同行することに。
果たしてハヤトはトンダじいさんの願いを叶えることができるのか?


ちょうどうちにも小四の娘がいるので親近感がわくと同時に、たった一人で知らない場所へ旅するハヤトをつい心配してしまいました。
それにしても四年生というと、だんだんと世の中のことを知るようになり、大人を客観的に見られるようになるものでしょうか。
ハヤトの目に映る両親含む大人たちの描写がなかなか興味深かったです。
そして旅の途中で様々なものを目にするもの。
福知山線脱線事故現場、広島の原爆ドーム、鹿児島・知覧にあった特攻隊基地。
身の回りの狭い範囲しか関心なかったハヤトがこの国で起こった災いとそれに関わった人々の想いに触れることで精神的に成長してゆくさまがみどころ。
それも変に押し付けがましいのではなく、傍にいる大人の手助けが自然体で良いです。
子供って環境や経験次第で見違えるほど成長するものだと感じた反面、大人である自分自身がお手本となれるようにしっかりしなければと思わされましたね。