11期・35冊目 『旭日、遥かなり1』

旭日、遥かなり - 1 (C・NOVELS)

旭日、遥かなり - 1 (C・NOVELS)

内容紹介

資源獲得のため仏印に進駐した日本に対し、米国は対日禁輸政策を強化、石油の輸出を禁止した!
一方同時期、ペトロパブロフスクのロシア帝国軍が反乱を起こした。日本はロシアの要請を受けて反乱鎮圧に助力するも、その際に米国の輸送船を誤射してしまう。
怒る米国は日本に最後通牒であるハル・ノートを突きつけた! 対米開戦を決意した日本は、真珠湾攻撃を計画。
だが図上演習の結果は日本の惨敗だった――。真珠湾攻撃がなかった太平洋戦争を描く待望の新シリーズ。

やはりと言うべきか、横山信義氏の新シリーズは太平洋戦争をテーマにしていて、背景として大幅に違うのが、革命後にシベリアに逃れたロシア帝国が勢力を保持。
ソ連の脅威を前にして、日露戦争の因縁を乗り越えて日本はロシアと友好関係を結び、軍民を挙げてを行っていたのでした。
アメリカもロシアへの進出を望むも、対日関係を重視したロシアは拒否。
欧州では史実通りナチスドイツが宣戦布告。勢力を伸長している状態。
かくして、日露独伊の四か国同盟と、英米蘭ソという連合国側という対立状態となっていたわけです。
ドイツの対ソ戦が始まると、ロシア帝国も参戦、バイカル湖を挟んでの一進一退の戦闘が始まります。
ドイツの要請にも関わらず、アメリカを主敵と考えていた日本は参戦を見送ります。
ドイツの快進撃が続き、首都モスクワが陥落したところで冬が到来。
苦しい状況の英ソは必死になってアメリカに参戦を促すも、これ以上敵を増やしたくないヒトラーも参戦の口実を与えない。
そこでアメリカは日本に宣戦布告をさせて世界大戦に加わるべく、石油禁輸を始めとする対日経済封鎖を通告(いわゆるハル・ノート)。
限度を超えた強硬すぎるアメリカの要求に座して待つよりは起つべきだと遂に日本は宣戦布告を決定するのですが・・・。


おおまかな流れとしては史実と同じなのですが、以下が重要な変更点。

  • 命脈を保ったロシア帝国(枢軸側)。
  • 図上演習で真珠湾攻撃が大失敗(黒島亀人が死亡して主席参謀がアメリカを良く知る新人物が関わる)。よって従来通りの漸減作戦を採用。
  • 日米戦が始まるも、露独伊は対米宣戦布告をしない。


いくつかのIFを重ねて歴史上の背景が史実とは大きく異なっており、そこから実際の戦術に影響を与えているという著者らしいオーソドックスな内容となっています。
ヒトラーにしても、山本五十六にしても、日・独のキーとなる人物が慎重な選択を行っている気配がありますね。
1巻だからでしょうか。著者にしては世界観説明が丁寧な感じがしました。
その分、実際の海戦は英東洋艦隊と巡洋艦陸攻を主力とする南遣艦隊との間で繰り広げられる夜戦のみですが、だいぶ史実と様相が変わっていて読み応えありました。
今までの作品にあったような酸素魚雷TUEEEEEとせずにいろいろ工夫されている感じがします。
あの艦と人物が生き残ったのが驚きでしたが、きっと後半でリベンジがあるのでしょうね。


次回から太平洋におけるアメリカとの戦いが始まると思われますが、史上初の航空戦を予想させる終わり方でした。しかも日本側の司令官が山口多門ですよ。これは期待せずにいられません。
そしてアメリカの立ち位置としては、当面日本との戦争に注力しつつ、いつ欧州側に参戦できるようにある程度の戦力を残すという態勢ですが、第二のルシタニア号事件が示唆されているように謀略によって参戦の機会を作りそうな気配はあります。*1
そのまま参戦しなかったら戦局にどのような影響を与えるんだろうという興味はありますけどね。

*1:冒頭で日本軍機が米商船を誤って爆撃したために危うい状態となった