12期・56冊目 『旭日、遥かなり7』

旭日、遥かなり7 (C★NOVELS)

旭日、遥かなり7 (C★NOVELS)

内容紹介

連合艦隊マーシャル諸島を放棄し、トラック環礁へ後退。空母「加賀」「瑞鳳」を失うなどの痛手を負ったが、米国との戦力差を埋める時間を稼ぐという作戦目的を達成した。
一方、欧州前戦ではソ連の崩壊が間近に迫る。崩壊後の利害関係をめぐり、ロシア帝国とドイツの間にはただならぬ緊張感が生まれていた。ユーラシア大陸が混沌に包まれるなか、米・英の大編隊が日本の最重要拠点となったトラック環礁に来襲。ついに実戦配備された新型零戦は、皇国の窮地を救えるのか。シリーズはいよいよ佳境へ!

委任統治領とはいえ本土から遠く、大規模な兵力を置いて維持していくことが難しいマーシャル諸島を放棄し、トラック環礁へ後退して守りを固めた日本軍と今度の戦いで圧倒的勝利を収め、日本を屈服させる筋道をつけたい米軍との戦いを描く7巻です。
史実のトラック島空襲(1944年2月17日-18日)では、真珠湾攻撃の復讐を企図した米機動艦隊の大規模空襲に対して、日本軍は効果的な防衛もできずに蹂躙されました。
そのトラック島空襲を日本側が万全な態勢で迎撃することができたら?という意図があったようです。
そのためにマーシャル撤退を率先させた軍令部次長の山口多聞を本人の希望としてトラック島における第一一航空艦隊の司令長官に転任させるほど。
前哨戦であるマーシャルから飛来するB24による空襲では零戦よりも陸軍の二式戦・鍾馗(しかもロシアとの合作による武装強化版)が活躍する描写がありました。


一方でスターリン亡き後、急速に崩壊が進むソ連、それを東西から追い詰めるドイツとロシア。
共産ゲリラの抵抗を受けるドイツよりも、交渉や謀略を用いて順調にロシアは領土を広げるも、バクー油田を始め、重要資源地帯や人口が多い都市部を押さえているのはドイツ側。
旧領に復したいロシアとウラル山脈での東西分割が妥当だと思うドイツにて思惑が分かれており、四か国同盟はソ連消滅と共に分裂の危機が訪れるのは確実。
そこで日本の立場も瀬戸際に立たされることになるわけです。
今まで通りにロシアに肩入れするか、それとも…?
もしも独露戦が勃発して、日本がロシア側に立つとなると、アメリカは日本と戦う理由が無くなるかもしれない。
そうなる前にアメリカ(というかルーズベルト)は日本を屈服に追い込みたいといった意図が描かれます。
自国の利益追及を正義の名のもとにきれいに変換して、邪魔な国を叩き潰す。あの時代のアメリカのジャイアニズムは留まりようがありません。相手が悪すぎるけど、選べないのが日本の悲しいところ。


真珠湾から出航する米軍の大艦隊の雄姿。
その影で工廠の人物が「果たして今回はどれくらいの艦が戻ってくるか…」と悲観的に見送るのが良かったです。
海戦において、一隻の艦は一つの駒に過ぎないかもしれないですが、その中には何百、何千という命を載せていること。それがいとも簡単に散っていくのが戦争だという事実はたとえフィクションであっても記述された方がいいでしょう。


そうして日米双方が総力をあげてのトラックを巡る攻防は米軍の先制攻撃で幕をあげます。
一式陸攻の後継機・星河(架空機)に疾風など、機材も揃えられていたのだろうと思わせます。
贅沢を言えば、もう少し日本の基地における奮戦の様子があれば良かったかな。
その分、防空戦艦として環礁内に入った伊勢、日向、山城、扶桑の奮戦がたいそう輝いていました。
直接空襲を受けてあっさり戦闘不能に陥ったが、二隻だけは寝た振り状態からの砲撃。
相手は基地砲撃のために速度を落としていた軽巡洋艦であったとしても、初弾命中で轟沈という殊勲。
格下とはいえ、ロートル艦が続けざまに最新鋭艦をぶちのめしていくのは心すく思いでした。最後は悲し過ぎましたが。


肝心の日本の第一機動艦隊は出遅れてしまいましたが、トラック攻防によって、基地の過半を破壊された代わりに多数の艦載機の失わせることになりました。
米軍が予備の艦載機を受け取り、万全の状態で日本軍を迎撃することが叶うかどうかが次巻の見所となるでしょう。
商船改造の護衛空母が懸命に西に向かう姿が描かれましたが、決戦の前に何かありそうな気がしてなりません。