12期・57冊目 『殺人摩天楼』

殺人摩天楼 (新潮文庫)

殺人摩天楼 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ロサンゼルス都心部に完成間近の25階建ての「グリッドアイアン」は、エレベーター運行から空調・照明・掃除・警備、尿検査による従業員の健康管理まで、全てをコンピュータで管理するインテリジェント・ビル。だが、その中で技師や警備員の連続変死事件が発生する。しまいには、建築家を始め、建設関係者全員が内部に閉じ込められて…。ビルが人間を襲うパニック・ホラー決定版。

SF由来のパニックホラーとして、コンピューターが反乱を起こして人間を襲うというのはありがちなテーマです。
社会において、あらゆる機器にはコンピューターによる制御が入り、身近な場所においても管理に欠かせない存在になっています。
もしもそのコンピューターが殺意をもって人を襲い始めたら?


建築家のレイ・リチャードソンが中国企業グループから発注して手がけたのが25階建て、通称「グリッドアイアン」(外観から”鉄の網”と称される)は管理する人間は最小限で、空調や照明はもとより、掃除や警備、トイレに入った後の尿による健康検査(薬物含む)まで一括で行うインテリジェント・ビルでした。
完成まで秒読みに入ったある日のこと、主要システムエンジニアの一人が変死。さらに警備員が何者かに殴殺されるという事件が立て続けに発生します。
前者はともかく、警備員に関しては建築に反対していた学生グループの関与が疑われて、リーダーが逮捕されますが、証拠不十分で釈放。
不穏な雰囲気が漂う中、リチャードソンは主要メンバーを集めて、ビル内にミーティングに入ったその日にコンピューターは反乱の意思を明確にします。
玄関を封鎖した上で、ビル内の人を次々と巧妙な手口で殺していくのでした。


前半は独裁的経営者のリチャードソンを巡る会社の複雑な人間模様*1が延々と描かれて、少し退屈に思えました。
主要人物の愛人として風水の専門家が登場して、いろいろと口を挟んでくるのですが、中国企業のビルだからアメリカの企業が発注しても風水は一般的なんですかね?
日本なら地鎮祭は一般的をするし、その土地によってゲン担ぎ的なものはあるでしょうが、あまりにも影響強すぎて不自然に思えました。
面白くなってきたのは、やはりコンピューターの反乱が明らかになってからでしょう。
まったく無警戒で、ただの機械がまさか?という場面で猛烈な殺意を露わにするところがまさにホラー。
コンピューターにとっては、普通のルーチン作業。でも人にはきわめて有害。
例えば部屋ごと特殊な薬剤でクリーニングされてしまうような。
そこに取り残されたらただでは済まない。本来は人がいない上で行われるはずが、悪意によってわざわざいる時に実行される。
そんな場面は恐怖を覚えるしかありませんでした。


本作が書かれたのは1990年代前半で、Windows95や携帯電話の本格的な普及前とはいえ、コンピューターや通信技術がますます発展していくと思われていた頃。
ビルまるごとコンピューターに管理を任せるというのは決して荒唐無稽ではなかったのでしょう。
さすがに20年以上前に書かれただけあって、いくらか古びた観はありますが、リメイクすればそのまま今でも通用しそうな内容です。
映画化の話はあったようですが、実現はされなかった模様。ラストの脱出のくだりはいかにも映画のシーンっぽくて良かったのですが。

*1:プロジェクトリーダー的な人物が耐えかねて辞めたが、その後の扱いが酷くて、もう少しなんとかならなかったのかと思った