6期・30冊目 『遺品』

遺品 (光文社文庫)

遺品 (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
金沢市郊外、銀鱗荘ホテルに眠っていた今は亡き女優・曾根繭子にまつわるコレクション。その公開作業が進められる中、明らかになったのは、コレクションを収集した大林一郎の繭子への異様なまでの執着。繭子の使った割り箸、繭子の下着、繭子の…狂気的な品々に誘われ、やがてホテルには、繭子が書き残した戯曲を実演するかのような奇怪な出来事が次々と起こる。それは確実に終幕に向かって―。書き下ろし本格長編ホラー。

勤めていた博物館の閉鎖により職を失った学芸員の主人公が、大学の先輩にして元彼の友人である大林観光グループの御曹司から入水自殺をした女優・曾根繭子に関するいわくありの仕事を紹介されるところが冒頭の話。
新たな職場である金沢市郊外にある高級ホテル銀鱗荘に着き、繭子のパトロン・大林一郎のコレクションの異様さを目にすることもあったりするも、ホテルの従業員(タケルら)と協力してコレクションの整理など展示への準備を進めるところまではまぁ普通の展開です。さほど期待されず、むしろ難題をふっかけられる中で奮闘する「わたし」とタケルの姿が微笑ましい。


そんな中で展示の目玉となりうる幻の脚本とフィルムが見つかったあたりから徐々におかしな出来事が起こっていきます。処分してもいつの間にか戻ってくる遺品の数々。深夜にホテル内で目撃される幽霊。極めつけは「わたし」自身が曾根繭子に似てきたと言われるようになり、全ての出来事は遺品の脚本を再現するかのように続きます。
ただ、読む者にとって印象に残るのはそういった怪奇現象よりも、周囲の人々による悪意ですね。それはほんの出来心によるものから自己中心的なものまで多種なのですが、そういった悪意によって「わたし」やタケルたちが傷つけられていくさまが痛々しい。
若竹七海はまだ2作目ですが、もともとミステリ作家であり、人の心の悪意を描写するのを得意とする作家らしいというのも納得です。
クライマックスで炎上とパニックによって非合理にも人々に追い立てられた主人公が行き着く先はというと、ファンタジックな締めくくりとなっています。すっきり感は無いですがそれまでの主人公の境遇を思うとこれも仕方ないかなと思わせるものです。