6期・31冊目 『パラレルワールドラブストーリー』

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
親友の恋人を手に入れるために、俺はいったい何をしたのだろうか。「本当の過去」を取り戻すため、「記憶」と「真実」のはざまを辿る敦賀崇史。錯綜する世界の向こうに潜む闇、一つの疑問が、さらなる謎を生む。精緻な伏線、意表をつく展開、ついに解き明かされる驚愕の真実とは!?傑作長編ミステリー。

いつもながら東野圭吾は導入部が秀逸で一気に引き込まれてしまうのですけど、今回はJR山手線(田端〜品川間)・京浜東北線を利用したことのある人ならば経験するあの並走感覚。つい向こうの電車内を見てしまう主人公の気持ちはよくわかるし、そこから恋愛が始まる*1という導入にしたのが巧いです。


物語は主人公・淳史が親友・智彦に恋人・麻由子を紹介され、かつて毎日電車で見ていた彼女であることを知り、友情と恋の狭間で悩む。そして一方では淳史と麻由子が付き合っていて、智彦は渡米して不在というもう一つの現実とが交互に進んでいきます。
果たして二つの現実はタイトルにある通りパラレルワールドなのか?
前者では智彦は記憶改変に関する研究を進めており、「画期的な発見」を果たす。後者では淳史には記憶が曖昧な時期がわかりつつあり、なんらかの関係があるかと思わせます。
物語が進むに連れて謎が謎を呼び、そして3人の仲はバランスを崩していく。


結果的に言うと、パラレルワールドというにはやや引っ掛けかなという感じがしないでもないですが、無意識に起こる記憶の改変を人為的に行ってみようという試みが非常に興味深いものです。ただの恋愛と友情を描いたストーリーだったらハマることもなかったでしょう。現実と記憶の間で揺れ動く主人公の心理に加えて、いくつもの伏線を生かした謎解きの要素が読む者をひきつけてやまないのです。

*1:運転感覚が短い上に遅延が多いから実際には難しいだろうけど(笑)