横山信義 『烈火の太洋1』

昭和一四年、日本陸軍は満蒙国境ノモンハンにてソ連軍に押され続けていた。このまま日ソ全面戦争に発展することを恐れた日本は、急ぎドイツ・イタリアとの同盟を締結。ソ連軍も矛を収め、相互不可侵条約が成立した。だが、北の脅威がなくなったことに安堵できた時は短い。ドイツがポーランドを攻撃、イギリス・フランス両国と戦争状態を引き起こしてしまう。三国同盟の約定により参戦することとなった日本は、西太平洋のイギリス領・フランス領を攻撃。マレー・シンガポールビルマなどを占領し、連合艦隊はインド洋へと進出した。だが、そこにはイギリス海軍の最強戦艦が待ち構えていたのである――。

横山信義氏の新シリーズです。
『荒海の槍騎兵』が完結してから2か月程度。この早さはさすが。
とはいえ、やっぱり太平洋戦争を題材にしているように思いきや、プロローグは昭和15年の半ばであり、本編は昭和14年ノモンハン事変から描かれているのが珍しく感じましたね。
ノモンハン事変解決の意味合いもあって史実よりも早く、平沼内閣の時代に日独伊の三国軍事同盟と対ソ不可侵条約が結ばれました。
ナチスドイツのポーランド侵攻をきっかけに英仏が宣戦布告。事実上の第二次世界大戦が始まったのですが、日本も早々に参戦したのが史実との大きな違いであり、ここからのifを描くようです。
ドイツが西ヨーロッパを席巻する中、アメリカから石油・鉄などを禁輸された日本としてはまず東南アジアの英仏蘭の植民地を攻めます。
ここで重要なのはフィリピンに駐在するアメリカ軍との戦端を開かないこと。
ルーズベルト大統領は中立を公約しているために自国からは戦争を始められませんが、その代わりに徴発行為を繰り返します。
それに乗ることなく、日本軍は仏印、マレー、シンガポール*1、蘭印・ビルマの植民地軍を蹴散らして占領。長期持久体制を整えました。
次なる目標はインドです。
本国に火がつきかけている大英帝国であっても、さすがにインドは捨てられるわけがなく、本国からネルソン級戦艦2隻と空母1隻を増援に向かわせます。
GFとしてもここが正念場として、赤城・加賀を始めとした機動部隊に戦艦長門陸奥を基幹とした戦艦といった主力を派遣。
かくして、アジア方面における日英の決戦が始まろうとしていました。

まだ零戦の実戦配備は始まったばかりで、艦戦の主力は96式なんですよね。主兵装が7ミリというのが心もとない気がします。
とはいえ、前哨戦である航空戦は量質ともに日本軍が圧倒します。
本番では史実には発生しなかったビッグセブン同士の砲撃戦ということで、否応にも期待が高まりました。
同じ40cm主砲を持つも、一隻あたりの砲数はネルソン級が上回りますし、全て前に配置しているためにT字を描いても有利となりません。
ただ、日本側は36cm砲とはいえ金剛・榛名がいます。
数的劣勢にある英軍はある奇策を用いて、機動部隊を封じ込めようとするあたり、さすが一筋縄にいきませんね。

シリーズ序盤ということもあり、英軍が意地を見せるも、日本軍が勝利を収めました。
しかし、フィリピン方面では恐れていた事態が!?
果たして事故なのか、故意なのか。
表向きは正義だの世界平和だの言いながらも、目的のためには手段を選ばない国ですからねぇ。なにやら謀略の匂いが…。

*1:軽空母・巡洋艦主体の英東洋艦隊はインド洋に避退。