横山信義 『連合艦隊西進す2-紅海海戦』

「フランス製の戦艦三、巡洋艦六、駆逐艦一〇隻以上から成る艦隊がマンデブ海峡を指して、紅海を南下している。それが現在の状況ですな?」

亡命イギリス政府を保護したことで、ドイツ第三帝国と敵対することになった日本。
第二次日英同盟のもとインド洋に進出した連合艦隊は、Uボートの襲撃により主力空母二隻喪失という大損害を出してしまった。さらなる被害を阻止するためには、紅海を封鎖しUボートの侵入路を塞ぐしかない。
攻略目標はマンデブ海峡を扼する要衝ジブチ。航空戦力を結集した日英連合軍の機動部隊の出撃――。
だが、対するドイツ海軍は強力な反撃を繰り出す。元フランス海軍最新鋭戦艦リシュリュー級とダンケルク級である。
想定外の強敵の出現に英海軍KGV級戦艦デューク・オブ・ヨークが立ち向かうが……。

日独開戦後、インド洋に進出した日本海軍が悩まされたのがUボートによる群狼戦術です。正規空母の中でも特に艦載数の多い赤城と加賀を沈められたショックは大きく、アメリカやイギリスから機器を導入して対潜部隊を設立するなど、海上護衛と対潜への方針は様変わりしました。
前巻でマダガスカルをめぐる攻防戦を制したのと並行して潜水艦狩りが進められましたが、輸送船を狙うUボートとの戦いは熾烈を極めます。
そこでアフリカ大陸東岸の拠点を潰すべく、日英軍共同で要衝ジブチの攻略作戦が発動します。
アフリカ大陸の地続きにあるといっても、地形的に整備されていないジブチは孤立していて陸路での援軍は難しい位置にあります。日英の航空部隊による空襲を皮切りに攻略は順調に進められました。
ジブチ占領によって、紅海の狭い海峡をUボートが出てくるのを待ちかまえて狩るだけとなり、俄然有利となります。
しかし、ドイツ軍も手をこまねいていたわけではなく、元フランス海軍最新鋭戦艦リシュリュー級とダンケルク級の3隻の戦艦を主力とした水上部隊を繰り出してきました。
折悪しく、近くに存在した友軍の戦艦はKGV級のデューク・オブ・ヨークのみ。日本軍は重巡を主力とする第八艦隊でした。
果たして日英軍は新鋭戦艦3隻を止めることができるのかが今回の見どころです。

ちょっと疑問に思ったのですが、アメリカから購入したレキシントン級空母*1を加えた機動部隊は艦載機の損害を被ったので後退したのはわかります。でも、代わりに戦艦を派遣しなかったのはなぜでしょうかね?
アメリカは中立を厳正に守っているわけですから太平洋方面に主力を配備する必要なく。連合国側なので燃料も問題ないでしょう。
まぁ、地理的に離れているから、本国から派遣したが間に合わなかったという事情はありそうですが、3対1という不利からどう戦うか。という展開を書くためにあえて登場させなかったのかと勘ぐってしまいます。
あと、あらかじめ基地航空隊が攻撃をかけたはずですが、被害を受けたような描写がまったくなかったので、敵の戦闘機が護衛に付いていたので成果なく終わってしまったのでしょうかね?

ともかく、こちらは二大海軍国とはいえど、英国は本土を失って戦力は限られていて、この戦場に限定すれば、戦力バランスは敵が圧倒的に上。戦いは熾烈を極めましたが、日英海軍が劣勢ながら巧さを見せられましたね。結果は辛勝ですが、戦略的目的は達せられました。三川中将率いる第八艦隊が野戦を挑むあたり、史実を踏まえているとニヤリさせられます。

今後、イギリスはエジプトを奪還したいようですが、今度は狭い運河を出ていかなければならない立場で、相手が有利になります。機動部隊、それに戦艦も押し出していくのでしょうか。
ドイツがソ連との戦いに注力しているために戦力が限られているのが有利とも言えます。さすがに日英がソ連と同盟を組むまではいかないようですが、状況的には敵の敵は味方となっているようです。

*1:旧式のために艦載機が少なくて、飛龍・蒼龍と大差ないのが意外だった。