横山信義 『連合艦隊西進す1-日独開戦』

「思いがけないことになったものだ。我が帝国海軍は長年、米英海軍を仮想敵と考えて作戦研究を進めてきた。それが今や、ドイツが最大の仮想敵になったのだから」

昭和一四年八月、ドイツがソ連との不可侵条約を締結したことにより、日本がそれまで進めていた独伊との同盟は頓挫する。かわりに日本に接近してきたのはドイツと対峙するイギリス、フランスであった。
やがて日英仏同盟が締結されるが、大陸を席捲したドイツ軍はついに英本土へ上陸。首都ロンドンを陥落させる。本国を脱出して東アジアに逃れた英艦隊は日本に亡命、これにより日本もまたヒトラー総統の怒りを買い、宣戦布告がなされた。
英仏政府の要請を受けた連合艦隊は、第一航空艦隊にセイロン島トリンコマリーへの進出を命じる。だがインド洋海面下では、牙を研いだ狼の群れがで息をひそめ獲物を待ち構えていた!

架空戦記ではしばしば取り上げられる日独戦。佐藤大輔氏の『レッドサンブラッククロス』が有名ですし、横山信義氏もかつて『蒼海の尖兵』シリーズを出していました。『蒼海の尖兵』シリーズではヒトラーの扱いがかなり変わっていた憶えがあります。
本シリーズでは独ソの不可侵条約締結後に日独が決裂。
第二次世界大戦は史実以上にドイツが優勢に進め、第二次英独航空戦で英本土のレーダーサイトを潰すことに成功したドイツが勝利、英本土に上陸して屈服させるという流れになっています。アメリカの大統領もルーズベルトではありません。連合国への援助も限定的。中立を厳正に守っているというか、リンドバーグのようなドイツ贔屓もいるくらい。

そんな中で日本は英仏と同盟を結んでいます。しかも日中戦争が早期解決しているのが大きいです。
亡命を図る英王室を載せた本国艦隊がインド洋まで達したところを追ってきたドイツ艦隊(鹵獲されたフランス軍艦の編成)と迎えにきた日本艦隊の航空機が交戦しかけたのをきっかけに日独も宣戦布告に至りました。

三大海軍国のうち、イギリスは同盟中ですが本土侵攻を受けていて、アメリカは中立を守り世界の武器商人への道を進んでいます。日本とドイツでは距離が離れている上に海軍力の隔たりがあります。
そういうわけでイギリスの反攻を助力する日本海軍上層部は主力を出したものの、舐め切っていました。一部心ある士官は潜水艦による群狼戦術を侮ってはいけないと進言していましたが。やはりというか、強烈なしっぺ返しを受けるんですよね。しかも日本にとっては最重要の正規空母が。
これほどのショックを受けないと対潜水艦への意識改革は進まない。あえて大きな犠牲を選んだのかもしれません。

今後の見通しですが、距離がある上に両国の戦力バランスの違いからどういう戦い方が進められるのかということ。それからアメリカの出方でしょうか。
イギリスと同盟していることから日本は親独派が勢力を失い、完全に親英米に傾いています。山本五十六GF長官が嶋田繁太郎海軍大臣にかけあい、アメリカから対潜兵器を購入するくらいに。さらに緒戦で失われた2空母の代わりの空母売却の話まで出ていてびっくりしました。そりゃまぁ、アメリカの国力をもってすれば空母二つくらい痛くはないでしょうけどね。