9期・24冊目 『カンガルー作戦』

著者のタイムスリップ(あるいはパラレルワールド)ものとしてはお馴染みタイムパトロール隊員のヴィンス・エベレットが活躍するシリーズ*1です。
以前、恐竜(ドロマエオサウルス)から進化して人間同様の文明を持つようになった世界の異類との接触、そして地球史の進化を巡る戦いを描いた『ダイノサウルス作戦』を読みました。
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20110131/1296480024
うって変ってカンガルーやコアラなどで知られる有袋類生物から進化した存在が文明を築いた世界があったら?という設定が本作になります。


白亜紀の終わり、地球上生物の王者として君臨した恐竜の絶滅後、ただちに哺乳類がそれに取って代われたわけではなく、当時まだまだネズミ程度の大きさで役不足でした。
新生代と呼ばれる時代が始まった頃はあらゆる生物が主役の座を奪おうと争っていたようです。
そんな中でオーストラリアや南米といった孤立した大陸では、中新世(約2,300万年前から約500万年前)まで哺乳類とは系統の異なる有袋類がさまざまなかたちで適応放散していたそうです。
やがて鮮新世(約500万年前から約258万年前)になってパナマ地峡で北米と繋がり、南下したきた哺乳類(真獣類)に駆逐され、人類が進化する中で主な有袋類オーストラリア大陸に残るのみとなったのが我々の歴史。
歴史のIf(もしも)として、南米大陸で繁栄していた有袋類動物が哺乳類に駆逐される前に有袋猿人、そして有袋人へと進化して古代文明が発祥し、やがて世界中に広まり人類と似て非なる歴史を持つようになった世界があったとしたら?*2
時間遡行技術を開発した未来有袋人が歴史の分岐点である漸新世(約3,400万年前から約2,300万年前)より人類史側に干渉してきたことでエベレットの乗るタイムマシンとの接触・事故が発生。
それをたまたまオーストラリアの地質調査で訪れていた秋野恵介ら20世紀人が目撃・救助したのですが、不幸にして始まった有袋人との争いに巻き込まれてその進化史を目にすることになるというストーリーです。


UFOに乗った人型異類という、一見してトンデモになりそうな設定であっても、オーストラリア大陸における独特の動植物体系から始まる地球上の生物の進化史をおさえながら進んでいくので知的好奇心を刺激されて、ひょっとしたらそうなった可能性があったのか?と思いつつ読むのが楽しいです。
この中でエベレットや秋野らの人類と有袋人は結果的に戦うことになってしまいましたが、最終的には別々の世界の文明を担う存在として、相手を尊重する結末となったのも好ましいですね。
著者は本作のようにタイムスリップを使って歴史とSFが融合した作品が多いですが、私のように歴史とSFのどちらも好きな読者にとってはたまらないです。
80年代の著作ですが、『ダイノサウルス作戦』や本作のように人類登場前の遥かな進化史を扱った作品は今読んでも新鮮さが感じられますね。

*1:脇役的な『異聞・ミッドウェー開戦』も含めれば全部で5作かな

*2:その世界での哺乳類はこちらでいう有袋類(カンガルー・コアラ等)同様の動物扱いになるらしい