4期・87冊目 『遷都』

遷都 (ケイブンシャ文庫)

遷都 (ケイブンシャ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
平城京長岡京平安京と日本史上類を見ないめまぐるしい遷都はなぜ行われたのか。新しき都―新しい時代を画す、新しい政治機構をめざして帝が行った遷都は必要不可欠だったのか。権力者たちの権謀術数に翻弄される朝廷政治の闇を独自の視点で才藻奇抜に描く表題作をはじめ、SFの巨匠が放つ本格歴史ミステリー三部作。

SFの巨匠であると同時に、日本史についても深い洞察をもって描く小松左京の歴史ミステリ。日本史において、藤原氏の権力闘争が激化していく過程で起こった3つの事件をテーマにしています。

  • 「遷都」

長岡京遷都を巡って起きた異変についての権力闘争をめぐる考察。

  • 「応天炎上」

応天門の変。若き日の菅原道真を中心にしてリアルタイムで炎上事件の事情を探る。

  • 「糸遊」

藤原道長の絶頂時代。「かげろう日記」の失われた記事を巡って安和の変の謎を探る。主人公は「源氏物語」記述前の無名の紫式部
やはり当時の人物(しかも日本史における超有名人の若き頃)を主人公にして事件の謎を探る2編が面白いです。
舞台を宇宙から奈良・平安時代の頃の都に変えても、まるでそこに行って見てきたような細かい状況描写は変わらないですね。


中臣鎌足を祖とし、不比等の代よりがっちりと朝廷の中枢に食い込み、ライバルたちを斥けつつ、やがて一門の中で権門を争うことになる藤原氏。現在から見れば一時代を築いただけでなく、長く日本史に影響を及ぼした氏族ではありますね。
しかし著者の手にかかるとそれまでの旧勢力と比べての異質性が明らかにされ、どういった手段によって、力をつけていったかが3編を通して記述されていくわけです。
専門家とは違い、想像力がものを言う作家だけに大胆に歴史の闇に切り込んでいく内容には歴史好きとしても刺激されます。また歴史上における有名人がさりげなく登場し、直接会話を交わす様はわくわくしますね。*1
時代的に登場するのは皇族・貴族が中心ではありますが、まだ日本史上では脇役であった武士がすでに京において裏稼業に手を染め藤原氏ら権門と表裏一体の存在あったことが事件の鍵となっており、とても興味深いですね。

*1:「糸遊」において会話がある人物だけでも紫式部の他、清少納言、阿倍晴明、源頼光渡辺綱など