4期・40冊目 『大坂夢の陣』

大坂夢の陣 (徳間文庫)

大坂夢の陣 (徳間文庫)

時間旅行が自在になった時代、テレビの歴史物特番はその時代にいって中継してくるようになっていた。大阪冬の陣中継を実況でやることになった梅木チームは…。


【収録作品】
「とりなおし(リテイク)」
「大坂夢の陣」
「黄色いねずみ」
「静寂の通路」
「知恵の木の実」
「木静かならんと欲すれど・・・」

最初の2編は科学技術の急速な発達によってタイムスリップが可能(ただし歴史介入に関しては一定の規則あり)となった時代。歴史上の事件を生で中継することがテレビ番組の主流となりつつあり、その専門たる梅木チーフ率いるチームが関が原の合戦の中継を行っている場面から始まります。
まさに今起こっている事実をありのままに見せるという歴史好きとしては垂涎の設定。修羅場の如き中継現場と相まって緊迫感漂う導入部なんですが、スタッフや中継車はカムフラージュしてあると言っても仕事熱心ゆえに近づき過ぎて人に目撃されたり接触してしまったり、おやおやという展開も。
多少の歴史介入は、大局的な歴史の流れの中で修正されるという前提により、徐々に過激に拡大傾向にあった歴史中継の結果、とんでも無いことが起こるのが「とりなおし(リテイク)」の結末。まぁ仕方無いことでしょうな。
「大坂夢の陣」は前回の続きで梅木チームが時間漂流の後、なんとか拾われて今度は一大プロジェクト・大坂冬の陣中継に参加するところ。腕をふるって戦の模様を撮っていたところにある史実の顛末に納得いかないある人物が歴史を大幅に変えてしまおうと暴走、そして驚きの結末。劇的な展開を地でいく、まさにSF的発想ですね。


「黄色いねずみ」はかつてエコノミック・アニマルと言われた日本人のバイタリティと、人種差別の中でも特に白人至上主義の欧米人の意識を皮肉っているのかな、という作風。「静寂の通路」は突然子供が生まれなくなったり生まれても育たなくなる異常事態、「知恵の木の実」は人間によって強制的に知恵をつけられ文明的な生活を送ることになった猿たちから描く自然破壊。
SFの中でもよく見られるジャンルである、人類の愚かな行為による結末としての絶望的な未来(ディストピア)を描いた作品ですね。
なかでも「静寂の通路」はまだ団塊ジュニア世代が生まれて間もない80年代初頭に発表されたこと自体が驚きではあります。ようやく認知が進んで対策が始まった公害問題と増えすぎた人口の反動で出産率が低下するであろうことを結びつけてこのような世代の断絶を描いたのかと想像しますが。少子化が深刻な今の状況と重ね合わせると、空恐ろしく感じますね。


「木静かならんと欲すれど・・・」中高年のパパが物質文明に冒された時代を嘆き「おれの若い頃は・・・」という、いつの時代でも見られそうな風景に始まるのですが、そこでパパが一念発起して田舎暮らしを決意。変なノリで家族も賛同し、電気も水道も通っていない山奥の廃村で終戦直後レベルの暮らしをしてみるという。
苦労しながらも大自然に囲まれた、今で言うスローライフに家族が馴染んでいくあたりは微笑ましいのですが、そこにマスコミの友人が来て彼らの生活が世間に知られていくあたりからがドタバタギャグ風の展開に。まるでいかりや長介の「だめだこりゃ」が聞こえてきそう(笑)