8期・59,60冊目 『ふりだしに戻る(上・下)』

ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)

ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)

ふりだしに戻る (下) (角川文庫)

ふりだしに戻る (下) (角川文庫)

内容紹介
ニューヨーク暮らしにうんざりしていたサイモン・モーリーは、九〇年前に投函された青い手紙に秘められた謎を解くため「過去」‐一八八二年のニューヨークへ旅立つ。鬼才の幻のファンタジー・ロマン。

タイムトラベル小説としては古典の部類に入る本作ですが、私が著者であるジャック・フィニイを知ったのは一昨年読んだ短編『机の中のラブレター』(『不思議の扉1 時をかける恋』所収)でした。
時代を超えた切ない恋愛を描いた内容が印象に残っていて、いつか長編である本作も読んでみようと思っていたわけで。
読了後の率直な感想としては、上巻がとにかく読むのに時間かかって退屈もしたけど、それがあってこその怒涛の下巻と意外な結末。
最後まで読み切って本当に良かったと思いましたね。


主人公のサイモン・モーリーはニューヨークの広告代理店に勤める二十代男性。
時代設定としては1970年代のようですが、今みたいに何でもパソコンではなく手書きが主流だったので、当然サイモンも絵心がある。
そのことが後でいろいろと役立つわけです。
ある日突然、政府のエージェントにスカウトされ、現存する歴史的建築物を足掛かりに過去へのタイムトラベルを実行するという極秘プロジェクトの一員として参加することになるのです。
手法としては催眠術によって建築された時代へ行くというのですが、サイモンはタイムトラベラーとして優れた素質を持っていたらしく、試験的なタイムトラベルに成功。
そこでサイモンはガールフレンドの養父の自殺現場に残された一通の青い手紙。その手紙の謎を解くために、投函された1882年真冬のニューヨークに行くことを望み、プロジェクトとして了承されます。
ただし歴史を変えることを避け、観察者に徹することを命題として。


政府のプロジェクトだけに服装や持ち物はもちろん、言語や知識の習得も含めて準備に万全を期してのタイムトラベルになります。
もっともサイモンの場合は同国内でいわば祖父の世代に遡るわけですからあまり問題無さそうなんですが。
とにかく19世紀のニューヨークの街並み描写が細かい。*1
サイモン自身が描いたとされるイラストや写真が豊富なのも雰囲気出てる。
高層ビルが乱立するニューヨークもまだこの時代は教会が高い部類に入るほどで緑溢れる都市だった様子がよくわかります。自由の女神像も今とは違う場所にあったとか。
これが元からのニューヨークっ子ならば、あそこはそうなっていたんだ!というような面白みがあるんでしょうが、土地勘がまったく無い土地ではそういう細かいニュアンスがわからないのが残念でした。


二度目のタイムトラベルでサイモンは下宿することなって、そこで働いているジュリアと出会い、彼女の婚約者ジェイクが実は青い手紙の差出人であることがわかって、否応なく時代に関わりを持ってしまうのです。
ついに手紙の主とその宛先であるカーモディ氏を目にして謎に迫るかと思いきや、そこに犯罪の臭いを感じてしまい、ジュリアを心配するあまりに目が離せなくなってしまう。
歴史を変えることを承知で彼らに干渉するか、それとも立場をわきまえて観察者にとどまるか、大きな岐路に立たされます。
ここまで関わった以上、ジュリアが不幸になるのを見過ごせず、サイモンは積極的に関わることを選択しますが、それがとんでもない災難が降りかかることに・・・。


トラブルに巻き込まれたサイモンとジュリアはどうなるのか?
そして青い手紙に書かれた謎と持ち主の正体。
アクションあり、ロマンスあり、ミステリあり、下巻の特に中盤あたりから活気に満ちた展開が繰り広げられて目が離せません。
そして無事現代に戻ってきたサイモンはプロジェクトから重大な選択を迫られる。
そこからの展開は本作がまさに時代を超えて読み継がれるのもむべなるかなと思わせるほど秀逸でしたね。

*1:解説によると、作者はかなり綿密に取材したらしい