8期・57冊目 『時間のおとしもの』

時間のおとしもの (メディアワークス文庫)

時間のおとしもの (メディアワークス文庫)

「携帯電波」
母子家庭の少女が留守番をしていた時に偶然見つけた古い携帯電話。
試しにかけてみると、別の世界の「わたし」に繋がった。
その世界の「わたし」は父子家庭であるという。
携帯電話を介したパラレルワールド(&ループ)を描いています。
突如、別世界に放り込まれ元に戻れないという点、幼い少女視点のほんわかした雰囲気から精神が壊れたような文章に切り替わるあたり、怖い童話風とも言えます。


「未来を待った男」
この時代にタイムトラベラーを呼び寄せる。そのために様々な奇行に走る男。「やり直したいことがある」のだという。
「わたし」はひたすらタイムトラベルの研究を続ける。
タイムトラベル好きな人のための一作。
ある意味驚きの展開が待っているのですが、タイムトラベルの動機としてはまったくもって頷ける話ではあります。


「ベストオーダー」
四人の俺が同じ場所に現れた。性格は違うが自分自身が複数いるこの状況を利用して完全犯罪を企てる。
確かにアリバイ作りにはちょうどいいけど、実際自分自身が複数いたらいろいろと面倒だろうなぁと思うもの。
そこはかなり強引に始末*1しようと考える「俺」がいたわけで。
実は四人の「俺」の世界は入れ替わりながら繋がっているという仕掛けは面白かったです。


「時間のおとしもの」
人と人の出会いはまるで「時間のおとしもの」。
電車で思いきり寝過ごした俺の隣には大きなリュックを抱えて、同じように寝過ごした少女がいた。
その子と一緒に歩いて戻る道すがら、中学時代に一緒に過ごした同級生を思い出す。
中学時代の淡い記憶とともに「あの時こうしていればよかった」という思いには共感するものがあります。
同じ時間を過ごした中学までと違って、大人になると時の流れが違って見えるもの。
十数年ぶり?に時を合わせた二人ですが、普通ならそこから新たな恋が始まっても良さそうなもの。なのに女の子の方はすでに結婚していたところが現実的すぎてちょっと冷めましたな。


淡く切ないストーリーあれば、ブラックあり。
発想的としては面白かったけど、なんかどれもあっさりしすぎて印象としてはあまり深くは残らないかな。そういう作風なんだろうけど。

*1:殺すと消滅する