8期・58冊目 『本日、サービスデー』

本日、サービスデー (光文社文庫)

本日、サービスデー (光文社文庫)

「本日、サービスデー」
しがないサラリーマン鶴ヶ崎のもとに、ある日悪魔(サターナー)だという女が現れた。今日は神さまがくれた一生に一度の「サービスデー」。どんな願い事も叶う一日だという。この大チャンスを、彼はどう生かすのか?
まるで「ドラえもん」の大人バージョンと言えるでしょうか。
ただし、のび太ならぬ40代サラリーマン鶴ヶ崎に絡んでくるのはセクシー悪魔女と、どこか抜けてるサラリーマン風天使。
自分をリストラしようとした上司が乗った飛行機が落ちないかなと心中で思ったばかりに本当に墜落事故が起きてしまうという思わぬ展開。
人が良すぎる鶴ヶ崎の決断と粋な計らいを見せた神様による結末がいいですね。
それにしても、脱サラしてビデオレンタルショップ*1
というのは、本人にとっては趣味が高じて仕事にという理想のパターンでしょうが、現実的には無いだろーとツッコミたくなりました。


「東京しあわせクラブ」
駆け出しの作家である主人公が誘われたのは、実際に起こった事件の関係者が残した生々しい物証を持ち寄って評価しあう集まりだった。
日常であれば何の変哲の無い物でも、加害者(もしくは被害者)が直前まで使っていたとか、密接に関係しているだけでレア度が上がるらしい。
それが凄惨な事件であればあるほど野次馬的な興味が湧いてしまうのは仕方ないかもしれない。
ただそれをあからさまにしてしまうところに嫌悪感を抱いた主人公の反応はもっともであります。
最後にクラブの会員が事件の当事者(加害者)となって物証を持ち去った可能性が示唆されたところにいき過ぎた蒐集心理の怖さを感じましたね。


「あおぞら怪談」
バイト先の先輩が住む古いアパートには女性の右手首だけの幽霊が現れるという。
最初は驚いたが、手が荒れていることに気付いた先輩がオロナイン軟膏をプレゼントしたお礼か、留守の間に掃除や料理までしてくれるようになって奇妙な同居生活が続いていた。
右手だけの幽霊というアイデアが不思議で面白い(掃除や料理には両手使ってるだろ?というツッコミは置いておいて)。
それだけならばほのぼのしたストーリーだったかもしれないけれど、自称霊能力者の女子学生がくせもの。
彼女に引っ掻き回された感じがしないでもないですが、結局成仏できたからハッピーエンドかな。


「気合入門」
いつも味噌っかす扱いにしている兄を見返そうと秘密兵器をもってザリガニ釣りに挑む少年。
強敵アメリカザリガニとの闘いを通じて気合を実感するという少年漫画のような展開ですが、同じようにザリガニ釣りした経験のある私にとっても懐かしくてその情景が目に浮かぶような一編でした。


「蒼い岸辺にて」
将来に絶望し、若くして自殺した女性は気が付いたら三途の川のほとりにいた。
そこで渡し守の男が見せたのは、生きていたら叶えられていたはずの未来の数々。
ズルいかもしれないけど、せめて若くして自殺した人がこうやって戻ってきて、人生をやり直せたらいいですけどね。


日常におけるちょっと不思議な体験を綴った中編3編と短編2編になります。
これらに共通するのは、つまらない毎日を過ごしていても、ちょっとしたことが人生の転機になりうるとか、きっといいことがあるよ、そんなメッセージが込められている気がします。
読むだけでちょっとした元気を分けてもらえるような作品でした。

*1:2000年代に入ってからは大手チェーンは別として、中小のショップは倒産が相次いでいるからね