9期・73冊目 『サザンクロスの翼』

サザンクロスの翼 (文春文庫)

サザンクロスの翼 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
1945年夏、いまや日本は敗戦寸前。何もかも失い特攻でも死にそびれた男・漂着した島で孤独に暮らしていた整備兵・そして闇の運び屋をしている女―。それぞれの思惑を抱えながら、水上仕様に改装されたオンボロ輸送機(ダコタ)で、南太平洋の空を駆ける。長く植民地支配を受けたこの地の自由と独立のために。胸すく大活劇。

戦争終盤、ボルネオの秘密基地にて特攻機の直掩(護衛)をしていたアメリカ帰りの零戦パイロット・峯崎は操縦の腕は抜群だが、初めて敵機を撃墜した時の相手パイロットを見たのがトラウマとなって銃を撃てなくなっていた。
ある日、基地が攻撃を受けた際に反撃として出撃したのだが、トラブルによって見知らぬ島に不時着。
機が炎上する中で失神してしまうも、先に漂着していた空母瑞鶴の整備員・野村に助けられて、しばし島で平穏に暮らします。
そこに現れたのがフロートを付けた水上仕様のDCー3。*1
激しい銃撃を受けていて、かろうじて着水するもパイロット含めて乗組員はほとんど死亡。
唯一の生き残りである日系インドネシア人のマリアの話では、彼らはヤミの運び屋で、インドネシア独立派の仲間に物資を運んでいる途中だったという。
物資の中の金塊を報酬として、飛行機の修理と飛行をしぶしぶ受けた二人。
果たして日米両軍が激しい戦闘を行っている中で、鈍重なダコタで辿りつくことができるのか?


滑走路が無くとも海面で離着陸が可能なフロート付き水上飛行機は広大な太平洋の島々で活躍しました。
太平洋戦争時、基地建設能力に劣る日本海軍は特に水上機開発に力を入れていて、零戦をベースにした戦闘機や大型飛行艇まで作っていましたからね。
そんな中で輸送機ダコタの水上機仕様を訳ありの零戦パイロットが操縦してインドネシア独立派の為に飛行する、というなかなかそそる航空戦記冒険ものだと思いました。
イデアと大筋のストーリーは良いのです。
個別にいえば特攻に駆り出された練習機・通称赤トンボにベテランパイロットが乗り込んで敵戦闘機を翻弄したり、そして終盤の独立のためにインドネシア人が蜂起するところなどは心踊らされる場面でしたね。


でも細かい部分でおかしいというか、妙に冷める部分が目立って、感情移入できなかったまま終わってしまいました。

  • 米戦闘機(おそらくF6Fヘルキャットを指す)をグラマングラマン言うのが違和感。一口にグラマン言うてもいろいろあるし、ついでに零戦がよく戦った戦闘機もグラマン社製だけじゃないのだが。
  • 人魚のマーキングした「ゼロ戦キラー」(この通称も変だ)だという敵が最初から最後まで何度も主人公らの前に立ちふさがるのはおかしくない?
  • 野村が空母瑞鶴と言うのが現代人ぽい。当時ならばただ瑞鶴で通用するはず。
  • 峯崎が口ずさむ「マイ・ブルー・ヘヴン」の歌詞が繰り返し繰り返しこれでもかというくらい出てくる。
  • 最後に峯崎が乗り組むのが戦争に間に合わなかった最新鋭の零戦五五型(最高速度750km、完全防弾、銃撃を喰らってもまったく性能が落ちない)というのが現実離れしすぎ。孤立した前線なんだから実在した機をカスタマイズするのが関の山じゃないか。現に紫電改で充分ヘルキャットに対抗できたのだし。まぁ幻の戦闘機を出すのならば烈風か震電にしてほしかったな。

もともと現代物が得意な著者なので、時代考証が足りないまま、現代の感覚で書かれたのだろうと推測します。
その点、戦記に慣れていない人ならばそれなりに楽しめたかな?どうだろう・・・。

*1:英軍でダコタ、米軍でCー47、日本軍で零式輸送機と呼ばれ各国で戦後まで長期に渡って使われた名機