中山七里 『ヒポクラテスの憂鬱』

内容(「BOOK」データベースより)
“コレクター(修正者)”と名乗る人物から、埼玉県警のホームページに犯行声明ともとれる謎の書き込みがあった。直後、アイドルが転落死、事故として処理されかけたとき、再び死因に疑問を呈するコレクターの書き込みが。関係者しか知りえない情報が含まれていたことから、捜査一課の刑事・古手川は浦和医大法医学教室に協力を依頼。偏屈だが世界的権威でもある老教授・光崎藤次郎と新米助教の栂野真琴は、司法解剖の末、驚愕の真実を発見する。その後もコレクターの示唆どおり、病死や自殺の中から犯罪死が発見され、県警と法医学教室は大混乱。やがて司法解剖制度自体が揺さぶられ始めるが…。

一見なんでもないような事件・事故で亡くなった死者を解剖によって隠された真実を暴くヒポクラテス・シリーズ。実は読むのは初めてです。
著者のシリーズではお馴染みの渡瀬警部の相棒・古手川刑事を主人公に置き、法医学教室の新米助教・栂野真琴というコンビ。
真琴が勤める浦和医大には世界的権威ではあるが、偏屈で毒舌な老教授・光崎藤次郎。
それに光崎教授の名声に惹かれてアメリカからやってきたキャシー・ペンドルトン准教授は(死体解剖に関する)好奇心旺盛な変人。
まっすぐで直情径行な古手川刑事と真琴に対して、キャラの濃すぎる先輩という、いかにもドラマが始まりそうなキャスティングですね。
連作形式の一話完結型であるのもドラマ的ですが、すべての流れが最後の話に結びついていくあたりはさすがと言えるでしょう。

一 堕ちる
人気絶頂のアイドルが舞台から落下した事件。
もともとおっちょこちょいなところがあった若いアイドルの痛ましい事故死ですが、解剖によって思わぬ展開を見せます。
二 熱中(のぼ)せる
ベランダにて遊んでいた幼児が熱中症にて死亡。しかし、通報した母および内縁の夫に対する尋問では明らかに不審な点が出てきて虐待が疑われます。
三 焼ける
新興宗教団体の教会から火が出て教祖が焼死体で見つかります。教祖を神格化する幹部らは信者を動員して、遺体の解剖を阻もうとします。
四 停まる
散歩中の老人が行き倒れて急死。既往症があったことから、心不全化と思わましたが、直前に保険金の額が上げられたことがわかったこと。妻からDVを受けていたことがわかるのですが・・・。
五 吊るす
若い女性が首を吊って自殺。彼女は銀行の金を横領していたことを苦にしていた思われるのですが、遺族は罪を犯して自殺したとはとうてい信じられません。唯一繋がりのあったと見られる証券マンには過去にも同じように自殺した女性と繋がりがあって・・・。
六 暴く
古手川刑事の同期の交通巡査が突然の飛び降り自殺。そんなことをするような人物ではなかったと信じる古手川は真相究明のために解剖を望むものの、遺体解剖が増加していたために費用が底をついている状況なのでした。

一連の話に共通しているのは修正者<コレクター>という人物によるインタネット上の書き込みに端を発しています。
単なるいたずらにしては内部関係者しか知らない情報も含まれていたことと、外国サーバーを巧妙に迂回していたために警察は振り回されます。
五、六までくると、修正者<コレクター>の意図は想像つくのですが、前半くらいまではさすがにわかりませんでしたね。
最近は医療ドラマも増えてきて、検視官や法医学という言葉も耳にします。
それでも死体を扱うだけに脚光が当たりにくく、専門用語も頻出します。そんな題材をよくぞここまでエンターテインメントとして仕上げたものですね。
特に「死体は嘘をつかない」とばかりの光崎教授の熟練の技には唸らされますね。下で働く真琴は苦労しているようですが(笑)