横山信義 『荒海の槍騎兵6-運命の一撃』

フィリピンへ来寇した敵上陸部隊を撃滅すべく、連合艦隊の全戦力を投じる捷号作戦が開始された。開戦以来の連戦により、戦力の大半を失った機動部隊は囮となり、米海軍空母部隊を戦場から引き離す作戦を実行、甚大な損害を被りつつも成功に導く。一方、大和、武蔵ら水上砲戦部隊はレイテ湾を目指し進撃を開始。だがそれは、米海軍の新鋭戦艦が待ち構える阻止線の正面突破を意味していた――。前衛隊として突き進む防空巡洋艦「青葉」の前に、米海軍の防空巡洋艦アトランタ」が立ち塞がる!

前回から続き。戦艦大和・武蔵を始めとする砲戦部隊はレイテ突入を目指しますが、狭い海峡の向こうでは米軍がT字を描く形で待ち構えています。
そのまま通り抜けようとしても、日本海海戦で敗北したバルチック艦隊の二の舞となるのは確実。
そこで巡洋艦駆逐艦を前にした横列という古臭い陣形で進んだ日本艦隊が海峡の手前で放ったのは400本以上の酸素魚雷*1
遠距離のために2%以下の命中率でしたが、それでも米軍には20本近い魚雷が当たり、戦力の半分近くが失われた上に大混乱。
各艦は粘りましたが、数に勝る日本軍が勝利を収めて、そのままレイテまで突き進みます。
その結果、途中で立ち塞がった護衛の艦隊はじめ、多数の輸送船団が沈んだ上に上陸途中であった陸軍部隊にも砲弾が降り注ぐことに。
そこまでは史実では無しえなかったレイテ突入作戦の理想であったと言えましょう。
しかし、吊り上げれてしまった米機動部隊がそのまま帰すわけにはいかず、執拗に航空攻撃を仕掛けてきます。
頼みの防空巡洋艦も海戦で撃ちまくったために弾数不足。
その結果、戦艦大和・武蔵に攻撃が集中することに…。
著者の作品で2隻ともあのような形で沈められたのは珍しいかも。
仮にですけど、生き残っても南方で動けないまま終戦を迎え、米軍に引き渡されるくらいならば、ライバル戦艦を主砲で沈めるという活躍の末に沈むのは艦にとっての本懐かもしれませんね。

前半の海戦によって盛り上がったのですが、後半はやや史実をなぞるように進んでいきます。
なにせ、連合艦隊の主力と引き換えに沈めたのは戦艦・巡洋艦駆逐艦ばかりであり、肝心の機動部隊は健在だし、マリアナ諸島を攻略されたことでB29が進出。首都圏が空襲範囲に入ります。
新鋭の戦闘機や防空巡洋艦も奮闘してB29を撃墜しますが、押し寄せるB29の大群、それに跳梁する潜水艦によって、日本の継戦能力は落ちていくのでした。
一方、欧州では大陸反攻失敗によって英米からソ連への援助打ち切りが影響して、ドイツはなんとか本土で踏みとどまっていますが、それでも敗色濃厚。
そんな中でアメリカは切り札である原爆の投下準備にかかっていたのでした。

サブタイトルの「運命の一撃」がまさに終戦のきっかけになったということでしょう。
当時の日本海軍のウィークポイントであった防空の補強。そこに目を付けたのはわかります。
現実的かどうかは別として、最後まで防空艦を主役に置いて書きたかったのだろうなぁと思います。史実では早々に沈んでしまったレパルス、それに青葉・加古、ろくに活躍できなかった北上・大井・酒匂あたりに見せ場があったのは良かったですね。
これでシリーズ完結。6巻なので最後は駆け足気味だったように思えます。
次も太平洋戦争を題材にするんですかね? 同じ架空戦記でも違う時代や地域を取り上げてみてもいいんじゃないかと思いますけど。

*1:重雷装巡洋艦である北上と大井が含まれていたため。