9期・36冊目 『クロノスの少女たち』

クロノスの少女たち (朝日ノベルズ)

クロノスの少女たち (朝日ノベルズ)

内容(「BOOK」データベースより)
平凡な中学生、山中彩芽は重大な事故に遭った。だが、少女はすでに誓っている。「私は死なない。たとえ、時の流れを変えてでも」。まさに命がけの、スリリングな挑戦を描く「彩芽を救え!」と、大好きな伯父さんを苦境から救う冒険「水紀がジャンプ!」を併録。はたして、時の神は、不屈の少女たちにどのような審判を下すのか。斬新な着想に満ちた“クロノス”最新作。

梶尾真治のタイムスリップものということで以前から知ってはいたのですが、元は中学生向けに書かれたということでしばらく敬遠してました。
まぁおおざっぱに言えば『時をかける少女』の現代中学生版ということで、別に大人が読んでいも良かったのでしょうけどね。


「彩芽を救え!」
中学2年の彩芽は親友・さつきが同級生の翔に告白するのに付き合わされることになったのだが、問題は自身も彼に好意を抱いていること。
そんなことを言い出せないまま待ち合わせのコンビニから移動しようとしたその時、自転車の老人を避けようとしたトラックが突っ込んできて彩芽は死んでしまう。
ただし彩芽の心だけは時を遡って他の人の中に入ってしまうようになってしまいます(憑依に近いが、乗っ取るわけではなく、主人格と共存して会話できる)。
そこで何とか自分が死ぬ運命を変えようと乗り移った人に協力してもらおうとするのですが・・・。
コンビニのおばさん→弟→父→母→トラックの運転手→老人→翔→さつきと次々と乗り移っていく過程で家族始め周囲の人たちがどんな気持ちを抱いているのかわかっていき、自分本位だった彩芽が周囲の人たちの本心を理解していくのが自然な流れになっていますね。
時間が限られた中で、乗り移るたびにいちいち説明して理解を得るのは実際大変だろうという野暮なツッコミはさておき、青春だなー良かったなーと思える思えるラストでした。


「水紀がジャンプ!」
前の「彩芽を救え!」の場所・人物がリンクした同じ世界から始まりますが、こちらはタイムスリップの王道的ストーリー。
開発したタイムマシンの実験で白亜紀まで行ったものの、燃料切れで戻れなくなった伯父さんを助けるため、中学3年の水紀は超小型タイムマシンに乗ります。
しかし一回目のジャンプ(タイムスリップ)で辿りついた紀元5世紀の中東でアクシデントに遭ってタイムマシンから出られなくなってしまう。
そこに現れたのはアラジンという少年だった。
タイムマシンが魔法のランプ、落ちてしまった燃料が魔法の指輪、そしてアラジンと洞窟から脱出するために使ったじゅうたん・・・ちょうど「アラジンと魔法のランプ」のストーリーをなぞっているかのような展開(水紀はランプの精の巨人というより、ハクション大魔王に出てくるアクビちゃんだが)が面白い。
最後は伯父さんの助手になるべく受験勉強に励むというオチですが、天才だけどちょっと抜けたところのある博士(伯父)としっかりものの助手(水紀)というコンビが活躍する続編ができても良さそうですね。


どちらも読みやすい軽いテンポのストーリーでありながら、彩芽には同級生や家族への思いやり、受験生の水紀にはどんな職業に就くにしても知識を得ることの大切さがさりげなく説かれているのが秀逸でした。