12期・7冊目 『トワイライト・ミュージアム』

トワイライト・ミュージアム (講談社ノベルス)

トワイライト・ミュージアム (講談社ノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)

天涯孤独な少年・勇介は、急逝した大伯父・如月教授が遺してくれた博物館で秘密裏に行われているあるプロジェクトの存在を知る。それは―脳死患者と時間旅行を研究する極秘実験。過去を彷徨う魂を救うため、勇介は学芸員枇杷とともに、過酷な時の旅へと出発する!注目の著者が放つ新感覚タイムトラベル・ミステリ。

孤児の少年・勇介は14歳にしてようやく見つかった大伯父に引き取られるはずが、いきなり事故死で元の天涯孤独な身に戻ってしまいます。
養子縁組される前だったために親族ではなく、一般席で見送った葬儀の日に出会った牧原という男性と枇杷という日独ハーフの若い女性。
大伯父が遺していた遺言で勇介は跡を継いで博物館のオーナーとなったことで、少なくとも住居は確保。そこでは牧原や枇杷学芸員として働いていました。
博物館としては、質よりも量を重視し、膨大な歴史的遺物が保存されて、一定期間ごとに様々なテーマで展示がされていたのでした。
しかし、ありふれた博物館は表向きの顔であり、その裏では精神的なタイムトラベラーである枇杷の能力を用いて過去を彷徨う脳死患者を救う試みがなされていました。
孤児施設で最後まで勇介と別れるのを嫌がっていた6歳の少女ナナが勇介に会いに来る途中で交通事故に遭って脳死状態に。
ナナは意識を失いながらも手足を動かしている仕草から、中世イングランドで礼拝を行っていると判断。その時代の人物の精神に宿っているらしいのです。
そこで真夜中の博物館にて、枇杷がタイムトラベルを試みるのですが、現代との繋ぎ(命綱)の役割を勇介を行うことになるのでした。


導入部からして惹きこまれるものがありました。
よくよく運の無い主人公・勇介と子供のような不思議な女性・枇杷との出会いもいい。
いきなり博物館のオーナーになったと思いきや脳死状態に陥ったナナを助けるためにタイムトラベルを試みるという急展開ではありましたが、読ませるものがありました。
タイムトラベルものとしては珍しい精神のみの憑依、さらに命綱となる主人公は現代との行き来が可能であり、博物館で待機しているスタッフと共に救出の手段を考えるという設定が物珍しくはありましたが、始めは”命綱”の意味が少しわかりづらかったかな。
ここでは悪名高い中世ヨーロッパの魔女狩りを描いていて、魔女として捕まってしまった老婆の精神にナナが宿っている。
魔女であることを民衆に証明する公開裁判で起こされる奇跡の絡繰りを見破るために限られた時間の中で現代に戻った勇介はスタッフとともに知恵を絞る。
この時代、一種の娯楽とされていた魔女裁判においては民衆は全て敵も同然であり、唯一の味方は牧師のみ。
時間制限もあって、タイムトラベルの目的を果たすには極めてハードモード。
流浪の民の少年に憑依した枇杷(および勇介)は果たしてナナを救うことができるか、中盤から終盤にかけてぐいぐいと惹きこませるストーリーでした。
単純にこちらの都合で動くのではなく、歴史の流れを変えないために本来死ぬべき運命の人はあえて助けないようにしなければいけない苦渋の判断をしたも良かったと思います。


タイムトラベル先での中世イングランドでの描写に力が入っていた分、現代の人物たちの事情が投げっぱなしであったのが消化不良であると言えますね。
破天荒な登場の仕方をした割はあっさり事故死した大伯父には主人公ならずともガックリしたもの。
実は枇杷には姉がいて牧原とは婚約者であったという事情はまだしも、他のスタッフははっきり言って中途半端で、なんでいきなり喧嘩をし始めるのか、とか飲み込みづらい点がありました。
ストーリー自体に勢いがあったので、そこは少し気になる程度でしたが。
もし続編があれば、そのあたりはもう少し書かれるのかもしれません。