6期・66冊目 『不思議の扉2 時間がいっぱい』

内容(「BOOK」データベースより)
古今東西の短編小説から不思議な味わいの作品を集めたアンソロジー第2弾のテーマは「時間がいっぱい」。笑いを誘う話から怖い話、ほのぼのする話まで、盛りだくさんでお届けします。―同じ時間が何度も繰り返すとしたら?時間を超えて追いかけてくる女がいたら?想像力の限界に挑む、時間にまつわる奇想天外な物語の傑作集。

収録作品は以下の通り。
「しゃっくり」 筒井康隆
「戦国バレンタインデー」 大槻ケンヂ
「おもひで女」 牧野修
エンドレスエイト」 谷川流
「時の渦」 星新一
「めもあある美術館」 大井三重子
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 フィツジェラルド


時空を超えた恋がテーマだった1と違って、今回は時の流れが何度も繰り返したり逆回転したり跳んだりと有り得ない状況になってしまった世界の作品を集めてあります。
いわゆる過去へのタイムスリップ(この中では「戦国バレンタインデー」)や同じ時間を繰り返す(「しゃっくり」と「エンドレスエイト」)というのは今や定番となっており、数々の作品が生まれています。
後者で言えば、そこからの脱出が課題となるのですが、「しゃっくり」は短時間の繰り返しが唐突に始まり同じように唐突に終わる。その最中も脱出後も記憶は残っているので、主人公のようにやけになって破廉恥な振る舞いにおよんだりすると…。非常に気まずいけど有り得そうなオチですね。
エンドレスエイト」は記憶は残らないものの、「夏休みを後悔無く過ごしたい」という想いのために一万五千回以上繰り返してるというすさまじい設定。決着の付け方としては納得なんですが、いくらなんでも遊び過ぎで呆れるというか、うらやましいというか。
「おもひで女」は記憶の中に恐怖の女が時が経つに連れて次第に近づいてくるというホラー。逃げようが無い恐怖を描いています。
「めもあある美術館」はリアル人生の美術館というのでしょうか。子供の時よりも大人になって見に行けたら涙ものかもしれない。


さて、今回特に印象に残ったのが以下の2編。
「時の渦」はゼロ時間に到達して時が進まなくなった途端、人間に限って死者が蘇る。「黄泉がえり」に似た設定ですが、ゼロ時間以降の一日分は全てリセットされ、時が過ぎるに連れてその時間分過去の死者も蘇ってくるというのが特徴です。
死が無くなった世界では、過去の真実を明らかにするための議論が活発する(なにしろ証人に困らないので)。さらにゼロ時間が千九百数十年たてば、人類最大の謎を明らかになる?
その発想とオチが秀逸な作品です。


「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は映画化もされた数奇な人生を送った男の話。
生まれた時には老人の姿。その後時が経つに連れて若返っていく。
最初は祖父のようであり、次第に父親に近づき、若い妻を迎えるもやがて自分の方が若くなり、ついには息子や孫よりも幼くなってしまい、最後は生まれたままの姿に戻って死を迎える。
しかしいくらなんでも本人だけでなく家族にとっても迷惑な話ですねぇ。ベンジャミンの姿を受け入れらず、子供として遇しようとした父親の姿が滑稽でもあり哀れでもありました。