6期・65冊目 『天地明察』

天地明察

天地明察

内容(「BOOK」データベースより)
江戸時代、前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。ミッションは「日本独自の暦」を作ること―。碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!早くも読書界沸騰!俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。

幕府に碁でもって仕える四家の一つ、安井家の生まれながら算術、そして暦に魅せられて、やがて改暦という一大プロジェクトに身を投じることになる渋川春海(二代目安井算哲)の生涯を描いた作品です。
碁打ちとしての才能・境遇ともに恵まれているものの、今ひとつ人生に退屈を感じていた春海が算術を通して和算として名高い関孝和や後の再婚相手となる”えん”との出会い。そして幕命による測量隊に従事することによって天体観測と暦の世界に引き込まれていくさまが描かれていきます。
歴史物の中ではあまり注目を浴びない太陰暦の変遷ですが、当時を生きる人々にとっては現代以上に暦は重要なものであり、その意義は宗教的政治的な権威を持つものでした。
それゆえか、保科正之徳川光圀はじめ歴史上の有名人物も多数登場し、春海と関わりを持ってきます。
書き方によっては非常に硬くなりそうなテーマですが、そうならないのは飄々として飾らない主人公の人柄や会話ゆえか。命じられて仕方なく二刀を差しながらもまったく武士らしくなく、目上に対しても若年者に対しても態度が変わらない人物なんてそうはいません(笑)
しかし800年の長きに渡り日本で使われてきた宣明暦が二日もずれていることがわかり、多くの人々の支援の元に改暦プロジェクトを推し進めていく春海はすさまじい情熱を持って邁進します。決して才気走った人物ではないのだけれど、周囲に押されて結果的にすごいことを成し遂げてしまうタイプというのですかね。
一度決められた定めをひっくり返す困難もあって、果たして改暦は可能となるのか読んでいる方もつい気になってしまのです。
最終的に大和暦を採用させるべく根回しとしたあたりではそれまであまり見られなかった主人公のしたたかさが見られましたけどね。
歴史的背景としても、武断政治から文治政治に移り変わる中で様々な学問が興隆していく様も興味深かったです。