8期・47冊目 『逆襲の虎 B29殱滅作戦―ハッピータイガー戦記』

逆襲の虎 B29殱滅作戦―ハッピータイガー戦記〈2〉 (カドカワノベルズ)

逆襲の虎 B29殱滅作戦―ハッピータイガー戦記〈2〉 (カドカワノベルズ)

内容(「BOOK」データベースより)
数奇な運命の果てに、ドイツ戦車兵となった日本兵川島英雄。バートルと名を変えた川島は、「タイガー戦車日本輸送計画」の任を受けて、戦友ハンスらと共に祖国を目指す。たび重なる英軍の猛攻により、計画は頓挫するかに見えたが、無敵と謳われたタイガーは、凄じい破壊力で敵を粉砕した。ビルマからタイ、そしてシンガポールへと前進するバートルたち。だが、Uボートによる輸送航海を前にして、突如計画が変更になった。「本土を荒らすB29の基地を強襲せよ―。」無謀な計画に苛立ちながらも、バートルたちは、〈福〉マークをつけたタイガー戦車で、B29「超空の要塞」に挑んだ。前作『ビルマの虎』を上回る壮大なスケールで放つ傑作戦記、堂々の登場。

ノモンハン事変生き残りの川島陸軍少尉がモンゴル人・バートルとして数奇な運命を経てドイツ兵となり、「逆さ福」のおまじないを付けたタイガー戦車(ハッピータイガー)の砲手としてヨーロッパ戦線で活躍。
戦争終盤に日本へのタイガー戦車移送途中でビルマに上陸して英軍と戦ったのが前作『ビルマの虎―ハッピータイガー戦記』。
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20101230/1293700154
ラストで潜水渡河に失敗して、運転手である吉田軍属とともに水没したかに思われたハッピータイガーのその後を描いた続編となります。
というか、続編が刊行されていたことに2年以上気づかなかったですわ…(汗)。


バートル(川島)はドイツ軍人のハンス、吉田軍属と共に無事だったタイガー戦車の日本輸送任務を再開するところから始まります。
時は戦争末期。ドイツは降伏し、日本も本土空襲に沖縄戦と追いつめられている中で、タイガー戦車を運搬する任務自体が非常に厳しいのがわかります。
激戦地だったビルマから離れたとはいえ、制空権を取られているために日中の移動は危険。海路も輸送船団が護衛艦ごと沈められる始末。
そんな中で鉄道だけは線路が爆破されてもすぐに修復してなんとか路線を維持していたというのが意外でした。
というわけで日本の鉄道隊の協力を得てビルマからタイ、そして事情により北上せずにマレー半島を南下してシンガポールに到着。
そこでドイツが残していったUボートでの運搬により、トラック基地まで行き、サイパンへの逆上陸作戦に参加するまでの長い長い旅路が描かれます。
2/3くらいがその行程に割かれているわけで、非凡な発想の割には非常に地味な内容の架空戦記なのです。
とはいえ単なる輸送ではなく、制空権を取られている中で頻繁に敵機が来襲したり、ゲリラが出没する危険があったり、いくつもの難所を越えてゆくさまはスリルに溢れる内容と言えるでしょう。
厳しい状況で奮戦する鉄道隊や戦争末期の日本兵たちの描写が興味深くて読み甲斐はあります。
ある意味、派手なドンパチの架空戦記とはまったく次元が違う、軍事マニア向けですが。


最後は目標が変わってB29の基地となっていたテニアン島襲撃を決行することになり、ここを死処と決めた三人がハッピータイガーに乗り込み、海軍の陸戦隊とともに大暴れ。
敵戦車との対決がなかったのはちょっと残念でしたが、当時の日本国民を苦しめていたB29を破壊しまくるという奇想天外な展開で溜飲を下げたので良しとしましょう(笑)
それにしても当時の太平洋戦線では無敵のタイガー戦車であっても、大重量ゆえの運搬の苦労や、部品の摩耗や精度悪いガソリンに悩まされたり、戦闘時には車内の高熱や有毒ガスが発生して乗員が倒れるなど、様々な苦労をしている描写がやけにリアリティを感じさせるのですが、それゆえもしも本土に辿りつけても当時の日本軍の手には負えなかったのだろうなぁと思えてしまうのが皮肉ではありますね。